バージニア信教自由法

バージニア信教自由法

バージニア信教自由法は、1786年にバージニア邦議会で可決された、アメリカにおける重要な法律であり、政教分離を初めて明記したものである。この法は、トマス・ジェファーソンが起草したものであり、信教の自由を根本的に定義した。独立戦争前のアメリカにおいては、イングランド国教会が特権的な立場を保持し、他の宗教や教派はしばしば差別や制約の対象となっていた。このような状況は、啓蒙主義者やさまざまな宗教の信者たちからの抵抗を招いた。

独立宣言の起草者であり、理神論者であったトマス・ジェファーソンは、1779年から1781年までバージニアの知事を務めていた。彼は、信教自由法を邦議会に提出し、同郷のジェームズ・マディソンの支援を受けながら、この法律の実現に向けて動き出した。1784年には、プロテスタント監督派教会が国教会の権利を引き継ぐことを目的とした宗教結社法人法が通過したものの、マディソンはこの法律に強く反対し、撤廃を求めた。

マディソンは「請願と抗議」と題した文書を通じて、信教の自由は個人の内面的な問題であり、政治的な圧力をかけてはならないと主張した。この請願には1万人以上の署名が集まり、長老派、バプティスト派、クエーカー、カトリックなど、さまざまな宗教の信者が支持した。その後、1785年に宗教結社法人法は撤廃され、1786年1月19日に信教自由法が成立した。

信教自由法の内容には、「いかなる人も宗教儀礼に金銭的な献金や教会への参加を強制されることはない」と明記されており、また、「すべての人は、他者の市民権に影響を与えることなく、自らの宗教に関する信念を表明する自由がある」とも定められている。この法律により、キリスト教を中心にした従来の寛容な立場が一歩進められ、公定教会自体を廃止することが求められた。ジェファーソンとマディソンは、公定教会が存在する限り、少数派の信教の自由は保証されないと考えていた。

通常、信教の自由が議論される際には、特定の教会の特権を制限する消極的な意味合いが強いが、この法律は「宗教の信仰はすべての人に平等に与えられた権利であり、良心に従って自由に信じることができる」と謳っている。このことから、信教の自由が単なる特権の否定にとどまらず、宗教の自由な実践を積極的に促進するものであることがわかる。

ジェファーソンは、宗教への深い関心を持つ人物であり、政教分離の思想は彼の中に強く根付いていた。彼はイスラームの聖典『クルアーン』の英訳を所有するなど、さまざまな宗教に対してオープンな姿勢を見せていた。この法の成立には、異なる宗教的見解を持ちながらも、信教の自由という共通の目標において協力した信者たちの存在も大きかった。

バージニアにおける既存の宗教的多元性も、この法の成立の背景の一因と考えられる。この信教自由法は、後にマディソンが主たる起草者となった1787年のアメリカ合衆国憲法の第1修正条項に引き継がれ、政教分離の原則と信教の自由が、アメリカの基盤においてさらに強固なものとなった。

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