寛容

寛容（Tolerance）

概要

「寛容」という言葉は、日本語では明治時代に翻訳されたもので、英語の「Tolerance」がその語源です。この言葉の根本には「耐える」「我慢する」といった意味が含まれていましたが、次第に「相手を受け入れる」という概念へと発展してきました。とはいえ、単純にすべてを無条件に受け入れるのではなく、主に自分にとって受け入れ可能なもののみを許す傾向があります。

歴史的背景

「寛容」という概念が最初に使用されたのは15世紀で、これは主に近世ヨーロッパの宗教改革に起因しています。16世紀の宗教改革によってカトリック教会が崩壊し、様々な宗教派が乱立し、信仰を巡る争いが激化したため、多くの人々が宗教的な寛容の重要性を認識するようになったのです。特に宗教戦争の時代に、寛容は信仰の弱さを表すものとみなされていましたが、平和共存に向かう過程で「必要悪」として受け入れられるようになりました。

宗教改革の影響

宗教改革の影響を受け、ヨーロッパではカトリック、ルター派、カルヴァン派、英国教会の四つの宗派に分裂しました。この結果、ある国では特定の宗派が「真の宗教」として他の宗派を弾圧し、他の国では逆の現象が見られる状況が続きました。カルヴァンは自宗派に対する迫害を批判しましたが、実際には彼自身の地域でも異端者が処刑されるなどの矛盾が存在しました。

このような不寛容に対して、エラスムスやカステリヨンは寛容を進める立場を取り、フランスのミシェル・ド・ロピタルなども良心の自由を主張しました。彼は信仰の強制は信仰ではないとし、手段としての寛容を支持しました。また、この時期には王権神授説も唱えられ、平和的共存の道が模索されました。

トマス・モアとジョン・ロックの考え

トマス・モアは著作『ユートピア』で、多様な宗教が共存する理想的な社会を描きました。彼の提案するユートピアでは、宗教の自由が尊重され、他の宗教を侵害しないという約束が守られています。一方、ジョン・ロックは『寛容についての書簡』で、宗教と政治の分離を強調し、信仰の強制に反対しました。ロックは、人の理解が限られているという観点から、他者を迫害する権利がないことを主張しました。

ヴォルテールとマルクーゼの提唱

フランスのヴォルテールも人間の誤り易さに基づいて寛容を考え、一部の不寛容には抵抗する姿勢を示します。彼は正義と不寛容の問題を絡めて考え、社会現象に対する批判的な視点を強調しました。さらに、ヘルベルト・マルクーゼは『抑圧的寛容』という論文で、権力に従属することの危険性を指摘し、社会的弱者を守るための寛容を主張しました。

結論

「寛容」という概念は、歴史的背景とともに発展し、様々な思想家によってその条件や実践について議論されてきました。これらの思想は、信仰や社会的安寧についての理解を深め、現代においても重要な課題として受け継がれています。寛容の精神は、多様性を受け入れるための基盤を提供し続けるのです。

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