バーゼル市立美術館

バーゼル市立美術館

スイス北部に位置する歴史と文化の薫る都市、バーゼル。この街に静かに佇むのが、バーゼル市立美術館（Kunstmuseum Basel）です。地元では簡潔にバーゼル美術館とも呼ばれており、この呼称はドイツ語の原語の発音にもより近いものとして親しまれています。この美術館は、バーゼル市立現代美術館とは密接な関係にあり、一つの入場券で両館を巡ることが可能です。

沿革と概要

バーゼル市立美術館の歴史は深く、1671年に門戸を開いた世界でも最も古い公共美術館の一つとして知られています。その起源は、かつて自由都市であったバーゼルで印刷業などを通じて財を築いたアマーバッハ家（Amerbach Cabinet）の貴重な美術品コレクションに遡ります。このアマーバッハ家が収集した美術品をバーゼル市が買い取り、市民に公開したことが、この美術館の礎となりました。

この初期の収集品は、特にアマーバッハ家が手厚く支援した画家ハンス・ホルバインの作品群に代表されます。これを筆頭に、バーゼル市立美術館のコレクションは、中世後期から近世にかけての西欧絵画を中心に、質量ともに大変充実しています。時代の流れとともに、コレクションはさらに広がりを見せ、20世紀初頭のダダイスムやシュルレアリスムといった現代美術の重要な作品も収蔵しており、その守備範囲の広さを示しています。

主な収蔵品

バーゼル市立美術館は、絵画を中心に、歴史的な価値の高い作品を数多く所蔵しています。その中には、時代を超えた巨匠たちの名作が並びます。

コンラート・ヴィッツによる中世後期の重要な作品、『シナゴーグ』（1430頃）や『聖クリストフォロス』（1435）は、初期フランドル派の影響を受けつつも、独自のリアリズムを追求した彼の技量を示しています。
ハンス・メムリンクの『聖ヒエロニムス』（1485-90）は、北方ルネサンス絵画の繊細さと精神性を伝えます。
マティアス・グリューネヴァルトの『キリストの磔刑』（1510）は、強烈な表現力で知られる宗教画です。
アマーバッハ家とも関わりの深いホルバイン家からは、ハンス・ホルバイン（父）の『女性像』（1512）や、ハンス・ホルバイン（子）の代表的な肖像画である『ロッテルダムのエラスムス』（1523）などが収蔵されています。これらの作品は、肖像画におけるリアリズムと心理描写の傑作として評価されています。
ハンス・バルドゥングの『死と女』（1518-20）は、生と死という普遍的なテーマを象徴的に描いた作品です。
スペイン黄金時代からは、エル・グレコの『聖ヨハネ』（1600年代）のような作品も見られます。
* さらに近現代に目を移すと、ウジェーヌ・ドラクロワの文学的な主題を描いた『魔女たちに追われるタム・オシャンター』（1849）、アルノルト・ベックリンの象徴主義的な傑作『死の島』（1880）、アンリ・ルソーのエキゾチックな風景画『大豹に襲われる黒人』（1910）などが収蔵されており、19世紀から20世紀にかけての美術の多様な潮流を垣間見ることができます。

これらの作品群は、美術館の長い歴史と、収集の質の高さを物語っています。バーゼル市立美術館は、古いマスターピースから現代アートまで、幅広い時代と様式の芸術を一度に体験できる、貴重な文化施設と言えるでしょう。

美術館の収蔵品に関するより詳細な情報や画像は、ウィキメディア・コモンズの関連カテゴリでも一部を確認することが可能です。

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