バード・イン・ハンド

『バード・イン・ハンド』（Byrd in Hand）は、アメリカ合衆国の著名なジャズ・トランペット奏者、ドナルド・バードによって1959年に録音され、同年に発表されたスタジオ・アルバムです。ジャズの名門レーベルであるブルーノートからリリースされ、ハード・バップ期を代表する作品の一つとして知られています。

参加ミュージシャン

本作の録音には、リーダーであるドナルド・バードを中心に、当時のジャズシーンで活躍していた実力派ミュージシャンが集結しました。

ドナルド・バード - トランペット
チャーリー・ラウズ - テナー・サクソフォーン
ペッパー・アダムス - バリトン・サクソフォーン
ウォルター・デイヴィス・ジュニア - ピアノ
サム・ジョーンズ - ベース
アート・テイラー - ドラムス

特筆すべきは、テナー・サクソフォーンのチャーリー・ラウズ、ベースのサム・ジョーンズ、そしてドラムスのアート・テイラーが、本作の録音時点でセロニアス・モンクのバンドで共に活動していたメンバーであることです。彼らがモンクのグループで培った緊密な連携と独自のグルーヴが、本作のサウンドに深みと推進力を加えています。

収録曲

アルバムには全6曲が収録されており、ドナルド・バード自身のオリジナル曲を中心に、他のメンバーやスタンダード曲も取り入れられています。各楽曲は、ハード・バップ特有のリズムとハーモニーを基盤としつつ、多様な表情を見せています。

1. ウィッチクラフト - "Witchcraft" (Cy Coleman, Carolyn Leigh) - 8:29
2. ヒア・アム・アイ - "Here Am I" (Donald Byrd) - 8:26
3. デヴィル・ホイップ - "Devil Whip" (Donald Byrd) - 4:44
4. ブロンズ・ダンス - "Bronze Dance" (Walter Davis Jr.) - 6:44
5. クラリオン・コールズ - "Clarion Calls" (Walter Davis Jr.) - 5:42
6. ジ・インジャンス - "The Injuns" (Donald Byrd) - 6:09

作曲者を見ると、バードのオリジナルに加え、ピアニストのウォルター・デイヴィス・ジュニアが2曲を提供していることが分かります。また、スタンダードである「ウィッチクラフト」を取り上げ、ハード・バップ解釈を披露している点も興味深いでしょう。収録時間の長い曲が多く、各メンバーのソロが存分に展開される構成となっています。

評価と音楽性

『バード・イン・ハンド』は、リリース当時から批評家やリスナーに高く評価されてきました。著名な音楽評論家であるスコット・ヤナウは、音楽データベースサイト「オールミュージック」にて、本作に5点満点中4.5点という高評価を与えています。

ヤナウはレビューの中で、このアルバムに収録されている楽曲そのものに、特筆すべき新曲や革新的な要素は少ないと前置きしつつも、ハード・バップ作品として見た場合のアンサンブルとソロの質の高さを絶賛しています。特に、参加ミュージシャンたちが一丸となって生み出す創造的なグループ演奏、そしてアルバム全体を通して披露される、各奏者によるエネルギッシュで生命力に満ちたソロパートを本作の最大の魅力として挙げています。これは、バードのリーダーシップのもと、集まった精鋭たちが互いに触発し合い、高度な音楽的対話を実現した結果と言えるでしょう。

本作のサウンドは、力強い管楽器の響き、タイトで正確なリズムセクション、そしてリリカルでありながらも推進力のあるピアノが一体となった、典型的ながらも質の高いハード・バップです。バードのトランペットは円熟味を増し、ラウズのテナーサックス、アダムスのバリトンサックスとのホーン隊は、豊かなハーモニーとスリリングなインタープレイを生み出しています。ウォルター・デイヴィス・ジュニアのピアノは堅実なバッキングと構成力のあるソロでバンドを支え、サム・ジョーンズのベースとアート・テイラーのドラムスによるリズムセクションは、盤石なグルーヴを提供し、演奏全体に安定感と躍動感を与えています。

収録曲それぞれのキャラクターも多様であり、アップテンポでハードドライビングなナンバーから、メロディックでムーディーな演奏まで含まれており、アルバム全体を通して飽きさせない構成となっています。ハード・バップの熱気、演奏者たちの卓越した技術、そして音楽に対する情熱が凝縮された一枚と言えるでしょう。1959年というハード・バップの最盛期に録音された本作は、このジャンルの豊かな表現力と奥深さを今に伝える重要な記録となっています。

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