アート・テイラー

アート・テイラー（Art Taylor）として広く知られるアーサー・テイラー・ジュニア（Arthur S. Taylor, Jr.）は、1929年 4月6日にニューヨークで生を受けたアメリカ合衆国のジャズ・ドラマーであり、パーカッション奏者です。特に1950年代から60年代にかけてのハード・バップ隆盛期において、その正確で力強い、そしてスウィンギーなドラミングで多くのミュージシャンから厚い信頼を得て、ジャズという音楽の確立と発展に多大な貢献をしました。彼は1995年2月6日、65歳で惜しまれつつこの世を去りました。

テイラーの音楽キャリアは、彼が生まれ育ったニューヨーク市、中でも特にハーレム地区で始まりました。若い頃から、後にジャズ界の巨星となるサックス奏者のソニー・ロリンズやジャッキー・マクリーンといった同世代の才能あるミュージシャンたちと共に演奏し、プロとしての技術と表現力を磨いていきました。彼のプロデビューは1948年、著名なトランペット奏者ハワード・マギーが率いる楽団での演奏でした。

プロ活動を開始して以降、テイラーは1950年代を中心とするハード・バップの最盛期において、ジャズ史にその名を刻む数多くの伝説的なプレイヤーたちと共演する機会に恵まれました。テナーサックスの巨匠コールマン・ホーキンス（1950年-51年）や、クラリネット奏者のバディ・デフランコ（1952年）との共演を経て、天才ピアニスト、バド・パウエルとは1953年と1955年から57年にかけて重要な演奏を残しています。さらに、トランペット奏者のアート・ファーマー（1954年-55年）、ピアニストのジョージ・ウォーリントン（1954年-56年）、そして革新的なサックス奏者として知られるジョン・コルトレーンとも共に演奏しました。これらの共演は、テイラーのドラマーとしての地位を不動のものとし、当時のジャズシーンにおいて最も求められるドラマーの一人となりました。

テイラーは自身の名前を冠したリーダー・グループ「テイラーズ・ウェイラーズ（Taylor's Wailers）」も率い、その活動を通じて彼自身の音楽的ヴィジョンを追求しました。このグループでは、ジャズの歴史において極めて大きな影響力を持つピアニストのセロニアス・モンクや、革新的なトランペット奏者マイルス・デイヴィスといったミュージシャンとも共に演奏しています。また、1957年にはトランペット奏者ケニー・ドーハムによって新たに結成されたカルテットのオリジナルメンバーとして、そのバンドの音楽的な屋台骨を支えました。1958年には、トランペッターのドナルド・バードやサックス奏者のボビー・ジャスパーと共に演奏旅行を行うなど、その活動の幅は広がり続けました。

彼のキャリアにおけるもう一つの重要な転換点は、1963年にアメリカを離れ、ヨーロッパに渡ったことです。その後約20年間にわたり、彼は主にフランス、そして1970年からはベルギーを活動の拠点として滞在しました。ヨーロッパの地では、現地の才能あるジャズ・ミュージシャンたちとの交流はもちろんのこと、アメリカからツアーで訪れる著名なジャズマンたち、例えばテナーサックス奏者のデクスター・ゴードンやジョニー・グリフィンといった面々とも頻繁に共演し、現地のジャズシーンに貢献しました。このヨーロッパでの長い滞在期間は、彼の音楽に新たな視点をもたらしました。

音楽活動に加え、テイラーは文筆活動にもその才能を発揮しました。1982年には、彼自身が多くのジャズ・ミュージシャン仲間に行ったインタビューや、彼らとの率直な対話をまとめた著書『Notes and Tones: Musician -To Musician Interviews』を刊行しました。この書籍は、音楽家たちの内面に深く切り込み、彼らの思考やジャズという芸術に対する哲学を探求したものであり、ジャズという音楽文化を理解するための貴重な資料として、現在でも高く評価されています。

1990年代に入ると、テイラーは再びアメリカ合衆国に帰国し、フリーランスのジャズ・ミュージシャンとして活動を再開しました。帰国後も精力的に演奏活動を続け、1993年にはかつて彼が率いた「テイラーズ・ウェイラーズ」を再結成し、新しい世代のメンバーと共にグループとしてのサウンドを再び追求しました。

ドラマーとして、アート・テイラーは30年以上にわたる長い期間、録音活動に深く携わりました。自身の名前を冠したリーダー・アルバムも数多く制作・発表しており、これらの作品はヴァーヴ・レコード（Verve Records）、ブルー・ノート・レコード（Blue Note Records）、プレスティッジ・レコード（Prestige Records）といった、ジャズ史において極めて重要かつ影響力のあるレーベルからリリースされています。彼のリーダー作品や参加した多くのセッション録音は、ハード・バップ期のドラミングの模範として、また当時のジャズサウンドを記録した貴重な音源として、今日でも多くのジャズファンや研究者によって聴き継がれています。

アート・テイラーは1995年2月6日に、65年の生涯を閉じました。彼の正確な死因は公表されていませんが、亡くなる直前には、オルガン奏者のジミー・スミスと共に新しいアルバムを完成させたばかりであり、最期まで音楽に対する情熱を持ち続けていたことがうかがえます。

アート・テイラーがジャズ界に残した功績は計り知れません。彼の堅実でスウィンギーなドラミングは、数え切れないほどの歴史的な録音を支え、ハード・バップというスタイルを形成する上で不可欠な要素となりました。また、彼の著書『Notes and Tones』は、ミュージシャンたちの生の声を通じてジャズ文化の深層に光を当てた貴重な文献です。テイラーは、ドラマーとしてだけでなく、文化の記録者としても、ジャズ史に確固たる足跡を残した人物と言えるでしょう。

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