パシッグ川

パシッグ川：マニラを流れる歴史と再生の川

パシッグ川は、フィリピンの首都圏を東西に横断する全長27kmの河川です。フィリピン最大の湖であるバエ湖から流れ出し、マニラ湾へと注ぎます。この川は、マニラ首都圏を南北に分ける地理的な特徴を持ち、マリキナ川やサン・フアン川などの支流を有しています。パシッグ川は、マニラ湾やバエ湖とともに、マニラ首都圏における重要な水系を形成しています。

感潮河川としての特徴

パシッグ川は、潮の満ち引きの影響を受ける感潮河川であり、河口付近では海水が遡上します。水の流れは、バエ湖とマニラ湾の水位差によって変動します。乾季には、バエ湖の水位が低いため、潮の干満に応じて流れの方向が変わりますが、雨季にはバエ湖の水位が高くなり、マニラ湾に向かって水が流れます。

歴史的な役割

スペイン統治時代には、パシッグ川は重要な輸送路であり、水源としても利用されていました。しかし、人々の生活排水や工業排水により、深刻な水質汚染が進み、生態系が破壊され、生物が生存できない「死の川」と化しました。近年では、河川の再生を目指した取り組みが、政府機関であるパシッグ川再生委員会(PRRC)や民間団体によって行われています。

流路の詳細

パシッグ川は、バエ湖から流れ出て、リサール州とマニラ首都圏の境界を流れ、その後、パシッグ・シティへと入ります。マリキナ川との合流点まではナピンダン川、またはナピンダン水道とも呼ばれています。パシッグ川と名前が変わると、タギッグ川との合流点までパシッグ・シティを流れ、マンダルーヨン・シティとマカティ・シティの境界を形成します。その後、北東へ向きを変え、マンダルーヨン・シティとマニラの境界を流れ、西へ向きを変え、サン・フアン川と合流します。

川の大部分はマニラ首都圏内に位置しており、唯一の島であるコンバレセンシア島にはサン・ホセ病院が立地しています。また、19の支流がパシッグ川に流れ込んでいます。

主要な支流と水路

パシッグ川の主要な支流には、マリキナ川とサン・フアン川があります。マリキナ川は、リサール山地から南流し、マリキナ谷を形成しています。サン・フアン川は、ケソン・シティがある台地の水を集めています。マニラ市内には、タラハン川やパラニャケ川など、多くの水路が網の目のように走っています。

川に架かる橋

パシッグ川には、19の橋が架かっています。バエ湖に近い橋はナピンダン橋、アルセニオ・ヒメネス橋、バンバン橋です。また、ブティン・スミランバシ橋やC-5号線橋も重要な橋です。マニラ市内に入ると、ランビンガン橋、サモラ神父橋、マビニ橋、アヤラ橋などがあります。さらに下流には、ケソン橋、LRT-1号線橋、マッカーサー橋、ジョーンズ橋などがあり、最も河口に近いのはロハス橋です。

周辺のランドマーク

パシッグ川沿いには、歴史的建造物や重要な施設が点在しています。河口近くの南岸にはイントラムロス城壁地区があり、北岸にはマラカニャン宮殿があります。また、コンバレセンシア島にはサン・ホセ病院が立地しています。マカティ・シティには、聖アナ競馬場やロックウェル商業センターなどの商業エリアがあります。

不法占拠問題

パシッグ川の河岸には、約12,000軒の不法占拠者のバラックが建てられており、約2,000家族が水上家屋や橋の下で生活しています。これらのバラックは衛生施設が整っておらず、排泄物が直接河川に投棄され、深刻な環境汚染の原因となっています。

水文と干満

パシッグ川の流域は、マニラ湾とバエ湖の間の平地に広がっています。マリキナ川の流域は、マリキナ断層線によって形成されたマリキナ谷を占めています。パシッグ川は、干満の影響を受け、雨季にはバエ湖から魚が流入します。しかし、乾季には水量が減少し、汚染が深刻化します。

洪水リスク

パシッグ川は、大雨による洪水リスクが高い地域です。マングガーン放水路は、マリキナ川の洪水をバエ湖に排水するために建設されました。また、ナピンダン水力制御システムは、パシッグ川とバエ湖の間の水流を調整しています。

歴史的背景と汚染

パシッグ川は、マニラの交易の中心として発展し、さまざまな民族が共存してきました。しかし、第二次世界大戦後、都市化と工業化が進むにつれて、パシッグ川は深刻な汚染に見舞われました。特に、1950年代以降の急激な人口増加と工業化が、川を巨大な下水道と化しました。かつては魚類25種と植物13種が生息していましたが、汚染が進んだ結果、現在では魚類6種と植物2種しか残っていません。

河川再生への試み

1970年代から、パシッグ川の再生に向けた取り組みが行われてきました。パシッグ川開発委員会（PRDC）が設立され、イメルダ・マルコス夫人は観光開発を計画しましたが、成功しませんでした。1991年には、環境・天然資源省が汚染調査を行い、産業汚染が主な原因であることを明らかにしました。その後、パシッグ川再生プログラム（PRRP）が立案されました。1999年には、パシッグ川再生委員会（PRRC）が設立され、より強力な権限を持って活動しています。

水上交通の歴史

パシッグ川の水上交通は、過去に何度か試みられてきました。1990年代には、マグサイサイ線やスタークラフト・フェリーが運航しましたが、いずれも短期間で終了しました。2007年には、パシッグ川フェリーが運航を開始し、現在は主要な交通手段の一つとなっています。

パシッグ川の現状と課題

パシッグ川は、依然として多くの問題を抱えていますが、再生に向けた取り組みは着実に進んでいます。今後の課題として、不法占拠者の移転や下水道システムの整備、そして、地域住民の意識改革が求められています。

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