パスティ

コーニッシュ・パスティ：コーンウォールから世界へ広がった伝統の味

概要

コーニッシュ・パスティは、イギリスのコーンウォール地方に古くから伝わる伝統的な具入りペイストリーです。パイとは異なり、円形の生地に具材を包み込み、半円形に焼き上げた独特の形状が特徴です。伝統的なレシピでは牛肉、じゃがいも、ルタバガ、玉ねぎを主な具材とし、シンプルながらも奥深い味わいが魅力です。

歴史

パスティの起源は完全には解明されていませんが、コーンウォールのスズ鉱山で働く労働者たちが、坑内作業中に持ち運び可能な食事として考案したという説が有力です。全身が泥で汚れる作業環境の中、包み込まれた具材だけを食べることで衛生面を確保し、食べ残しの皮は坑内に捨てられたと言われています。この習慣は、鉱業地域であるイギリス北東部などにも広まりました。1746年にはトゥルロのコーンウォール公文書保存館に最古のレシピが保管されており、コーンウォール発祥説を裏付ける証拠となっています。その後、コーンウォールの鉱山労働者たちが世界各地に移住する際にパスティの文化を伝播させ、現在ではイギリスのみならず、アメリカ、メキシコなどでも親しまれています。

材料と調理法

伝統的なコーニッシュ・パスティの材料は、牛肉、じゃがいも、ルタバガ、玉ねぎが中心です。近年は、鶏肉、チーズ、野菜など、様々なバリエーションが登場していますが、伝統的なレシピでは、塩コショウのみでシンプルな味付けが好まれます。生地は、硬すぎず、脆すぎない、携帯に適したものが求められます。また、折り目にも地域差があり、横向きに閉じる方法と、上向きに閉じる方法が存在します。

地理的表示保護

2005年には、コーンウォール産の牛肉、じゃがいも、玉ねぎ、ルタバガなどが、大量にコーニッシュ・パスティの製造に使用されていました。近年まで、コーンウォールは小麦の商業生産に適さないと考えられていましたが、最大手のパスティ製造業者が地元産の小麦の開発に成功しています。2002年には、コーニッシュ・パスティ協会が地理的表示保護（PGI）を申請し、承認されました。これにより、伝統的な製法でコーンウォールで作られたパスティのみが「コーニッシュ・パスティ」を名乗ることが認められています。

地域差と世界への広がり

パスティは、コーンウォール、デヴォン、ウェールズ、イングランド北東部などイギリス各地で食べられていますが、アメリカ合衆国北部やメキシコなどでも広く普及しています。特にメキシコ、イダルゴ州のレアル・デル・モンテでは、移住したコーンウォール人鉱員の影響でパスティが郷土料理として定着し、「パステ」と呼ばれ親しまれています。地域によって、具材や調理法にバリエーションがあり、各地域の文化が反映されています。

パスティにまつわる文化と迷信

コーニッシュ・パスティは、地域に根付いた文化や伝統と深く結びついています。「Oggy Oggy Oggy, Oi Oi Oi」という歌は、鉱山でパスティが完成した際に歌われていた労働歌です。また、パスティの皮を食べないという迷信も存在します。これは、坑内や海で亡くなった労働者の霊を慰めるため、皮を捨てていたという説に由来しています。

パスティの記録と逸話

パスティの歴史は古く、13世紀の文書や、シェイクスピアの戯曲にも登場するなど、文学や歴史にも彩りを添えています。また、巨大なパスティを作るコンテストや、パスティフェスティバルが開催されるなど、地域の人々に愛される存在となっています。一方で、経済学者のステファン・J・ダブナーが、メキシコにおけるパスティの販売記事について誤解したことで有名な逸話も存在します。

まとめ

コーニッシュ・パスティは、単なる料理ではなく、コーンウォール地方の歴史、文化、人々の生活と深く結びついた、重要な存在です。その歴史と伝統、そして世界に広がる多様な姿は、これからも多くの人々を魅了し続けるでしょう。

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