パット・マルティーノ

パット・マルティーノは、1944年8月25日にアメリカ合衆国ペンシルベニア州フィラデルフィアで生まれ、2021年11月1日に77歳でこの世を去った、ジャズ界を代表するギタリストであり作曲家です。本名はパット・アッツァーラと言い、音楽好きの父親の影響を受け、12歳でギターを始め、15歳にはプロとしてのキャリアをスタートさせました。

マルティーノは、ジャズの中でも特に、ポスト・バップ、フュージョン、メインストリーム・ジャズ、ソウル・ジャズ、ハード・バップといった幅広いジャンルでその才能を発揮しました。初期の頃は、ウィリス・ジャクソンやエリック・クロスといったサックス奏者、ジャック・マクダフをはじめとするジャズオルガン奏者たちと共演し、その名を広く知られるようになりました。

1976年、マルティーノは脳動静脈奇形による脳動脈瘤で倒れ、1980年の手術によって、ギターの演奏能力と音楽に関する記憶を失ってしまいました。しかし、家族の献身的なサポート、コンピュータによる補助、そして自身の過去の録音を聴き返すことによって、記憶を取り戻すという奇跡的な回復を遂げました。この驚くべき経験は、その後のインタビューで詳細に語られています。

1987年、アルバム『バック・イン・ニューヨーク - ライブ・アット・ファット・チューズデイズ』で音楽活動を再開し、2004年には『ダウン・ビート』誌の「Guitar Player of the Year」を受賞、2007年にはワールドツアーを敢行するなど、精力的な活動を続けました。1995年には、京都で出会った日本人女性、アヤコ・アサヒ・マルティーノと結婚しています。しかし、2018年には慢性呼吸器疾患のため演奏活動を停止し、2021年に生涯を閉じました。

マルティーノの音楽理論は「マイナー・コンバージョン」として知られていますが、これは単にマイナー調の楽曲に限定されるものではありません。フレットボードの構成を基盤とした独自の理論であり、コード進行に縛られない自由な発想を可能にするものです。彼の演奏には、コード進行上の制約を超えた多様な音が用いられており、理論は演奏を説明するための手段として用いられていました。

彼は、「モード奏法」と呼ばれる演奏スタイルについても、「形式的なスケールを使うのではなく、いつも自分の旋律の本能に従って演奏してきた」と語っており、自身の直感と経験に基づいた演奏を重視していました。

マルティーノは数多くのアルバムをリリースしており、代表作には『エル・オンブレ』、『ストリングス!』、『イースト!』、『ザ・ヴィジット』、『バック・イン・ニューヨーク - ライブ・アット・ファット・チューズデイズ』、『光と影のギタリズム!』、『ウェス・モンゴメリーに捧ぐ』などがあります。これらの作品を通して、彼の卓越した技術と音楽に対する深い情熱を感じることができます。

マルティーノの生涯は、音楽に対する情熱、不屈の精神、そして人間の可能性を象徴するものであり、多くの音楽ファン、そしてギタリストたちに大きな影響を与え続けています。

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