パトリース・ラッシェン

パトリース・ラッシェンは、1954年9月30日にカリフォルニア州ロサンゼルスで生まれた、アフリカ系アメリカンの著名なソウル/R&B歌手であり、卓越したピアニストです。彼女は自身のリーダー作品での成功に加え、セッション・ミュージシャンとしても幅広く活躍し、音楽界に多大な貢献をしてきました。

幼少期からキャリア初期

幼少期から非凡な音楽的才能を示し、わずか6歳でピアノを弾き始めると、瞬く間に「神童」として注目を集めるようになりました。南カリフォルニア大学で英才教育を受けるなど、若い頃から専門的な訓練を重ね、高校時代には数多くの音楽コンテストで優勝を果たしています。1974年には、アルバム『Prelusion』で待望のプロデビューを飾りました。

デビュー後は、ジャズ界の巨匠であるジャン＝リュック・ポンティ（バイオリン）やスタンリー・タレンタイン（サックス）といったアーティストのバックバンドに参加。さらに、リー・リトナーやデイヴ・グルーシンなど、ロサンゼルスを拠点に活動する先鋭的なミュージシャンたちとの交流を通じて、フュージョン音楽の黎明期における中心的な存在の一人として頭角を現しました。

エレクトラ移籍とソウル/R&Bへの展開

1978年、パトリース・ラッシェンは名門レーベル、エレクトラ・レコードへと移籍し、アルバム『妖精のささやき』を発表します。この移籍を機に、彼女の音楽性はフュージョンの要素を残しつつも、よりソウルやR&B、ファンクといったポップなサウンドへと傾倒していきます。続くアルバム『陽気なレイディ』(1979年)、『おしゃれ専科』(1980年)、そして大ヒット曲「Forget Me Nots」を収録した『ハート泥棒』(1982年)といった作品群は、彼女の評価を決定づけるものとなりました。

特に「Forget Me Nots」は、そのキャッチーなメロディと洗練されたサウンドで世界的なヒットを記録。さらに1997年には、ウィル・スミス主演の大ヒット映画『メン・イン・ブラック』のテーマ曲として、この曲のサンプリングが使用されたことで再び大きな注目を集め、世代を超えたリバイバルヒットとなりました。

活動の多様化と近年

1980年代後半からは、パトリースの活動範囲はさらに広がりを見せます。テレビ映画の音楽制作や、プロデューサーとしても手腕を発揮。1990年代には、世界的なポップスターであるジャネット・ジャクソンのツアーで音楽監督を務めるなど、その才能は多方面で求められました。映画音楽の分野でもその才能を発揮しており、『メン・イン・ブラック』をはじめとする作品に貢献するなど、スクリーン・ミュージックの世界にも確かな足跡を残しています。

オリジナル・アルバムの発表は1997年の『Signature』が最新ですが、彼女は現在もなお、非常に精力的にセッション・ミュージシャンとしての活動を続けています。長年の音楽的パートナーであるギタリスト、リー・リトナーとの共同制作も多く、2005年のリユニオンアルバム『オーヴァータイム』や、2006年の『スモーク・アンド・ミラーズ』に参加しています。『スモーク・アンド・ミラーズ』には、「Forget Me Nots」をアフロ・リズム風に大胆にアレンジし、自身も演奏に加わったバージョンが収録されています。リトナーのプロジェクトを通じて、2005年、2007年には日本でのライブにも出演しており、2014年の公演では共演した日本のドラマー神保彰がその交流について語るなど、日本の音楽シーンとも繋がりを持っています。

その長年の功績が称えられ、2005年にはアメリカ合衆国の名門音楽教育機関であるバークリー音楽大学より、名誉音楽博士号（Honorary Doctorate of Music degree）を授与されました。歌手、ピアニスト、作曲家、プロデューサー、音楽監督として、フュージョン、ソウル、R&B、ポップ、映画音楽など、ジャンルを超えて活躍を続けるパトリース・ラッシェンは、まさに現代音楽における多才なアイコンと言えるでしょう。

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