パナウェーブ研究所

パナウェーブ研究所は、かつて福井県に本部を置いていた宗教団体「千乃正法会」の一部門として活動していました。代表者は千乃裕子氏。彼らは、人体に有害な影響を及ぼすとされる「スカラー電磁波」の脅威を強く主張し、その見えない電磁波から身を守るための独特な対策を実践していました。

主張と対策

研究所の中心的な教義は、人工的なスカラー電磁波が自然環境や人体に深刻な被害をもたらすというものでした。彼らは、この有害な電磁波を防ぐために、全身を白い装束で覆うことを推奨し、信者たちは長袖のコート型白衣、白いマスク、白頭巾、白長靴といった白尽くめの姿で生活し、移動しました。また、使用する車両にも、スカラー電磁波を遮断する効果があるとされる渦巻き模様の図柄を貼り付けていました。思想的には反共主義を掲げ、「共産主義者がスカラー電磁波を用いて日本を攻撃している」といった独自の陰謀論を展開することもありました。

社会的な注目と騒動

1977年頃に任意団体「千乃正法」として活動を開始したとされ、1997年からは全国各地を行脚するようになりました。この過程で、岡山県で町道を塞いだとして関係者が逮捕される事件も発生しています。パナウェーブ研究所の名が広く世間に知れ渡ったのは、特に2003年春の出来事でした。彼らは「惑星ニビル星が地球に衝突し、大規模な天変地異が起こる」と予言し、迫りくる災厄から逃れるために山梨県内の施設への避難を呼びかけました。

これに関連して、2003年 4月末から5月初旬にかけて、白い装束の集団と白い車両が岐阜県内の林道や国道を占拠する事態が発生しました。この異様な光景は、テレビのワイドショーなどで連日繰り返し報じられ、一時的にパナウェーブ研究所への社会的な関心が極めて高まりました。当時の警察庁長官が、彼らの装束や行動を「異様だ」「オウム真理教の初期に似ている」と指摘したことは、報道の過熱に拍車をかけました。

騒動を受けて、当局も動きを見せ、法務大臣が公安調査庁による調査が進められていることを明らかにしました。集団は5月10日には福井の本拠地へ帰還し、一時的な混乱は収束しましたが、その後も法的な動きが続きました。虚偽の自動車登録の疑いで全国の施設が家宅捜索され、関係者が逮捕、起訴される事態となりました。また、集団のメンバーであった千草聡氏が本拠地施設内で変死し、傷害致死容疑で複数のメンバーが逮捕されるという事件も発生しています。

メディア報道とその評価

2003年のパナウェーブ研究所に対するメディアの報道は、その視覚的なインパクトから極めて集中的かつ過熱したものでした。当初、メディアは彼らを「白装束集団」「白ずくめ集団」などと呼称していましたが、その実態や過去の行動が明らかになるにつれて、異様さが強調されていきました。しかし、集団が本拠地に戻り、予言された天変地異も起こらなかったこと、そして団体の危険性がそれほど高くないと判断されると、報道は急速に沈静化しました。宗教学者の石井研士氏は、この一連の報道を振り返り、「明らかに根拠のない過剰なもので、集中報道しなければならなかった理由は見当たらない」と批判的な評価を下しています。報道の中には、「反共団体」という団体の自己認識を「環境団体」と誤って伝えるといった事例も見られました。

その後の変遷と終息

2006年 10月には、パナウェーブ研究所代表の千乃裕子氏が死去しました。代表の死後、研究所の様子は徐々に変化していきます。かつてはスカラー電磁波対策として本拠地全体が白い布で覆われ、周囲の立ち木にまで渦巻きマークが貼られるといった徹底した様相を見せていましたが、時間が経つにつれて白い布は撤去され、看板も「パナウェーブ研究所」から上位組織である千乃正法会の書籍を扱う出版社の名前に変わりました。建物の数は増えましたが、活動は縮小傾向となり、2011年の福井新聞の取材に対して、中の人物からは「パナウェーブ研究所はもう無い」との返答があり、組織は自然消滅したと見られています。

定期的に現地の取材を続けていたフリーライターの鹿取茂雄氏は、2021年にもかつての本拠地を訪れています。2004年当時は警戒心が強く、取材者に対して追跡を行うといった行動も見られましたが、2021年時点では関係者は穏やかな様子で、「過去のことより、ここで平穏に過ごしたい」と語っていたといいます。鹿取氏は、こうした長期的な観察を通じて、かつて社会現象となった集団が、現在は静かに暮らしている様子を伝えています。パナウェーブ研究所は、短期間のメディア騒動で社会の関心を集めましたが、代表の死や時間の経過とともに活動を終え、静かにその姿を消していったようです。

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