パナソニックのテレビブランドの変遷

パナソニック（旧：松下電器産業）は、創業以来、様々なテレビブランドを展開し、日本のテレビ文化の発展に大きく貢献してきました。その歴史は、革新的な技術と時代を反映したデザイン、そして人々の記憶に残るCMとともに紡がれています。

嵯峨（1965年）

パナソニックのテレビブランドの歴史は、1965年に発売された白黒テレビ「嵯峨」から始まります。当時すでに可変容量ダイオードを用いた「人工頭脳テレビ」などを展開していた同社が、そのラインナップの一つとして投入しました。「和」を感じさせる名称とは対照的に、ウォールナット材を用いた重厚な筐体は北欧家具のようなモダンなデザインを志向しており、脚部や天板の縁にはブナ無垢材が使用されていました。このデザインは1965年度のグッドデザイン賞を受賞しています。19型モデルは72,500円（現代の約70万円に相当）と非常に高価でしたが、発売から5年間で130万台を売り上げる大ヒットとなりました。商品カタログや広告に使用された「嵯峨」のロゴは、著名な版画家である棟方志功氏によるものです。「嵯峨」の成功は、シャープ「歓」、東芝「王座」、三洋電機「薔薇」、三菱電機「高雄」など、日本風のネーミングと豪華な木目調デザインを特徴とする「家具調テレビ」ブームの火付け役となりました。

パナカラー（1966年）

翌1966年、カラーテレビの主要ブランドとして「パナカラー」が登場しました。松下電器は早期からカラーテレビを製造していましたが、「パナカラー」として大々的にアピールが始まったのはこの年からです。初代モデルは「嵯峨」の流れを汲む重厚なデザインを採用。チャンネル選択を助ける「マジックライン」機能が搭載され、これを宣伝するために「マジックおじさん」というキャラクターが登場しました。声は藤村有弘氏、アニメーションは東映動画が担当し、決め台詞「ドント・フォルゲット」は流行語になりました。初期は真空管とトランジスタを併用していましたが、半年後には真空管を排し、ICとトランジスタを組み合わせた省電力モデル「黄金回路パナカラー」を発売。「マジックライン」に加え、自動で色彩調整を行う「オートマジック」も搭載されました。
1970年代に入りカラーテレビが普及すると、「パナカラー」は同社製カラーテレビ全般の総称となり、広告などで幅広く使われるようになります。ブラウン管技術「エバートロン」をブランド名に使う時期もありました。1980年代には大型ブラウン管やリアプロジェクションテレビを「ビッグパナカラー」と称し、江夏豊氏をCMに起用したモデルなども登場しています。

パナカラー クイントリックス（1974年）

1974年には、新開発のブラウン管「クイントリックス」を搭載したモデルが登場しました。この技術により、コントラストや明るさが大幅に向上。さらにシャーシを一新することで、飛躍的な省エネ性能を実現しました。坊屋三郎氏が「クイントリックス」を連呼するコミカルなCMが話題となり、ブランド名を広く浸透させ、50万台を売り上げる大ヒットとなりました。その後も「Woody」「輝」「ヒーロー」「魁」といった派生モデルが登場。千昌夫・ジョーン・シェパード夫妻を起用したCMも人気を博し、「イワテケーン」が流行語となりました。この頃から一部機種でチャンネル/音量操作のみのリモコンが付属するようになります。「ヒーロー」以降は音声多重放送に対応し、「魁」はFMラジオ受信機能も搭載。阿久悠氏、秋山庄太郎氏、タモリ氏、団しん也氏など多彩な著名人がCMに出演しました。スピーカーを別売とした「セパレート77」シリーズも存在。音声多重対応機種はチャンネル表示色が放送種別で変わる工夫もされていました。「クイントリックス」は海外でも販売されています。大型機種にはサラウンドスピーカー出力端子も備えていました。

パナカラー α（1981年）

1981年には、シンプルなモニター風デザインと拡張性を特徴とする「コンポーネントα」が発売されました。滝田栄氏がCMに登場。同時に、ビデオ入力端子を備えた家具調の「CRYSTAL Woody」シリーズも展開されました。1982年には櫛型フィルタやRGB端子を備えた「αデジタル」、1983年には「α2000」が登場。沢田研二氏がイメージキャラクターを務めました。家具調AVテレビ「彩」も発売され、畑正憲氏がCMに出演しています。1984年発売のカラーモニター「αTUBE」は床置き可能な斬新なデザインで、1985年のグッドデザイン大賞を受賞。この頃から、テレビのデザインが家具調からモニター風へと変化し、AV機器との連携を前提とした大画面化が進みました。1985年には累計生産1億台記念モデル「α2000X」が登場し、星野仙一氏がキャラクターに。1986年には「αサラウンド」、年末にはフラットARTブラウン管やツインターボスピーカーを採用した「αArt」が登場。渡辺謙氏がCMに出演し、大型画面をアピールしました。「αArt」はナショナルブランドで発売された最後のテレビシリーズとなりました。上位機種にはVTRシステム端子を備え、対応ビデオデッキとの連動操作が可能でした。モノラルテレビの大型機種はこの頃終息に向かいます。アンテナ入力端子の位置やケーブルホルダーが変更され、BSアナログ放送対応のチューナーも登場しました。

パナカラーイクス（1988年）

1988年、AV機器分野でPanasonicブランドが導入され、その最初のテレビブランドとして「パナカラーイクス」が誕生しました。当初は従来のナショナルブランド「αArt」と同サイズで併売されました。アナログBSチューナー内蔵（一部機種は文字放送も）、キャビネット一体型のドームスピーカーによる高音質・重低音再生が特徴でした。地上波アンテナ入力はVU混合式に変更。CMにはジョージ・ルーカス氏が登場し、モーツァルトの「ジュピター」がCM曲に使われました。ソウルオリンピックに合わせた広告も展開。1989年にはスーパードームスピーカーやドルビーサラウンドを搭載した「XA1」シリーズ（37型もラインナップ）や、シンプルなデザインのXW1/X1/XS1/XV1、木目調の「ARBRE」が登場。43型ブラウン管搭載の「VIP43」やプロジェクションテレビ「GranVision43」といった大画面モデルも存在しました。1990年のTH-21XV1はAV入力のブリッジ接続機能を搭載。大型上位機種にはカラーボタンが搭載され、詳細な設定が可能になりました。TH-14V3はタイマー・時計機能を搭載し、リモコンで対応ビデオデッキ操作も可能でした。ソニー「プロフィール・スター」、東芝「バズーカ」など、競合他社もスピーカー内蔵型が主流となります。BSアナログチューナー内蔵機には専用アンテナが必要である旨が注意喚起されました。「パナカラーイクス」は、「パナカラー」ブランドを冠した最後のテレビブランドです。小型パーソナルテレビ「ピエドラU4」シリーズも登場しました。

画王（1990年）

1990年10月、「パナカラーイクス」の後継として、カラーテレビ事業30周年を記念する新コンセプトの「画王」が誕生しました。「画王生誕。」「BS時代の新・テレビジョン」をキャッチコピーに、平面に近いブラウン管「スーパーフラット&ブラックマスク」、重低音再生を強化した「重トーンドームスピーカー」、明るさ自動調整「カメレオンAI」など多くの新技術を導入。画面両側を特殊シートで覆う「ノイズレスデザイン」は、以降の大型テレビのデザインに影響を与えました。家電業界では異例の漢字＋濁点ネーミングも特徴。津川雅彦氏が「画王国」の王に扮するCMが大きな話題となりましたが、公正競争阻害のクレームを受けCM内容が変更される騒動もありました。漫画化やCMソングのCD化なども行われるなど、大きな文化的影響力を持ったブランドです。発売1年で約100万台を売り上げ、累計300万台を記録する大ヒットとなり、東芝「バズーカ」と並んで大画面テレビ市場を牽引しました。43型プロジェクションテレビ「画王43」、木目調の「純木画王」、テレビデオ「画王」、ワイド画王、ビデオデッキ「録画王」など多角的に展開。1991年にはアナログハイビジョンテレビ（MUSE方式）も発売。1992年にはBSアナログチューナー内蔵14型「TH-14JS1」が登場しました。1994年発売の「GF1シリーズ」が画王シリーズの最終モデルとなりました。チャンネル設定方式がアナログ選局から数字変化方式に変更され、表示書換機能、音量表示、外部入力表示などが現在のパナソニックテレビの基礎となる変更が行われました。

ヨコヅナ（1994年）

1994年、「ワイド画王」の後継として、16:9ワイドテレビの独立ブランド「ヨコヅナ」が誕生しました。通常の「ヨコヅナ」と高級感のある「ハイビジョンヨコヅナ」でデザインを差別化。中央部が曲線的なアーク状で専用台と一体化したデザインも特徴でした。松方弘樹氏、武田真治氏、後に篠原ともえ氏をCMに起用。山口百恵氏の『プレイバックPart2』をCMソングに、プレイバック機能などをアピールしました。地上波アンテナ端子がネジ式F型接栓対応に、初期設定がリモコンでも可能に。表示書換機能は外部入力にも対応しました。光・同軸デジタル出力端子は一時廃止。BSアンテナ電源設定やサラウンドスピーカー端子も変更されました。ゴーストリダクション機能で映像の二重映りを軽減。ビデオデッキにもこの名称が使われました。ポケットリモコンを採用し、本体内蔵時計は廃止されました。地磁気補正機能や音声オート機能、ダイナミックトリプルスピーカー方式も導入。1996年には初のプラズマテレビ（TH-26PD1）やプロジェクションテレビ（TH-48HG1）も発売。リモコン信号が家電製品協会規格準拠の新方式に変更されました。テレビデオの大型機はこのシリーズで終了。モノラルテレビはZシリーズへと刷新されました。

美来（1997年）

1997年、ソニーの「WEGA」に対抗する形で、平面に近いブラウン管「ナチュラルフラットハイビジョン管」を搭載した「美来」が登場。新開発の高画質回路で対抗しましたが、市場での販売は苦戦しました。そのため、「美来」の後に登場した平面ブラウン管ハイビジョンテレビ「ピュアフラット」も併売されました。これは後の「T（タウ）」のプロトタイプとも位置付けられます。パナソニックは「画王」や「カラーフラットビジョン」で平面ブラウン管の開発自体は先行していました。大型機種にはファミリーイヤホン端子も搭載。テレビデオではFMラジオチューナー搭載モデルも発売。普及モデルTH-25ZA3はZシリーズ唯一のステレオ機でした。ブラウン管プロジェクションテレビはこの年で生産終了。1998年の「美来」の新聞広告は新聞広告賞を受賞しています。

T（タウ）（1998年）

1998年9月、同社初の完全フラットテレビ「T（タウ）」が発売されました。「タウが、来た。」「フラットの頂点へ」をキャッチコピーに、フラットブラウン管「Tフラットハイビジョン管」や、デジタル処理による高画質、ストレートホーン5スピーカー、世界初の電子番組ガイド（EPG）などを搭載し、先進性をアピールしました。「タウ」は大ヒットし、「WEGA」と並ぶフラットテレビの代表格となり、テレビ累計生産2億台を達成しました。プラズマディスプレイ採用の「プラズマT（タウ）」も同時期に登場。1999年には画質・スピーカー強化モデルが登場し、上位機種はグッドデザイン賞を受賞。「10億ポイントデジタル高画質」を謳いました。2000年のD10シリーズからはBSデジタルチューナー内蔵「デジタルT（タウ）」が登場し、2001年からは110度CSデジタルにも対応。CMには浜崎あゆみ氏やフェイス・ヒル氏を起用。2002年のD30シリーズは「ビューティー・タウ」と称されました。2003年には地上デジタル放送開始に伴い3波フル対応となり、D50/D55/D60/D65シリーズはブラウン管史上最高画質と評価され、ハイビジョンブラウン管テレビの最終モデルとなりました。同年、ブラウン管事業を東芝と統合し松下東芝映像ディスプレイを設立しますが、国内事業は2006年に撤退します。テレビ向けインターネットサービス「T navi」もタウに由来します。ブラウン管テレビとしての「T（タウ）」は2007年8月で生産終了し、ブランドは消滅しました。

VIERA（2003年）

2003年9月、「VIERA」ブランドが誕生し、パナソニックは薄型テレビ事業に本格的に注力し始めました。それまで「プラズマタウ」「液晶タウ」として展開していた薄型テレビが、「VIERA」として統一され、現在の主力ブランドとなります。

備考

パナソニックブランドの本格展開以前に「NATIONAL PANASONIC」名称を使用していた白黒テレビ「パナパナ」などがありました。カラーテレビの型番表記は時期によって異なり、かつてはカラーテレビと白黒テレビで事業部が分かれていました。藤沢テレビ事業部では世界最小のブラウン管テレビも開発。現在のパナソニックプラズマディスプレイ本社は旧テレビ事業部の所在地です。かつてのサラウンドスピーカー端子は廃止され、現在はホームシアターなどが主流です。松下電工からフラットアンテナ一体型BSチューナーも発売されていました。現行のテレビ製造部門は映像・ディスプレイディバイス事業グループです。ブラウン管テレビ終焉とともに純正テレビ台の生産も終了し、ラックシアターも生産終了。現在は他社製テレビ台が多く使われています。アナログ時代のアンテナ線や周辺部品もデジタル放送への移行に伴い終焉を迎えました。従来型アナログテレビ向けの外付デジタルチューナーも発売されていました。

もう一度検索