パパラッツィ

パパラッツィ：スターとパパラッチのせめぎ合い

1963年、イタリア・カプリ島。映画『軽蔑』の撮影は、まさにハリケーンのような熱狂と混乱に包まれていました。ヌーヴェルヴァーグを代表する監督ジャン＝リュック・ゴダールと、その時代のトップスター、ブリジット・バルドー。この豪華な組み合わせに、世界中のパパラッチたちが群がったのです。

ジャック・ロジエ監督によるドキュメンタリー短編映画『パパラッツィ』は、このカプリ島での撮影現場を舞台に、スターとパパラッチのせめぎ合いを克明に記録しています。本作は、パパラッチを主題にした最初の映画として、映画史にその名を刻んでいます。

映画は、1963年5月17日夕方5時、カプリ島に到着した撮影隊の様子から始まります。バルドーとゴダールは、ローマから付いてきた多数のパパラッチに囲まれ、まさに囲み取材状態。ロケ地となったマラパルテ邸は、巨大な望遠レンズが林立する、異様な光景に変わります。

ビキニ姿で犬と戯れたり、共演者ミシェル・ピコリと演技をしたり、笑ったりするバルドー。しかし、それを容赦なく撮影するパパラッチのシャッター音は、まるで機関銃の連射のようです。バルドーは次第に笑顔を失い、パパラッチの猛攻に耐えかねている様子が見て取れます。

一方、ゴダールは小さな帽子をかぶり、カラビニエリ（イタリアの憲兵隊）の協力を得ながら、パパラッチとの間で虚しい交渉を繰り返します。バルドーはバスローブという防御服でプライバシーを守ろうとしますが、パパラッチの執拗な追跡は続きます。このスターとパパラッチの戦いは、撮影期間中、カプリ島を舞台に繰り広げられたのです。

監督のジャック・ロジエは、ゴダールに才能を見出され、ゴダール作品のプロデューサーであるジョルジュ・ド・ボールガールに紹介されました。『アデュー・フィリピーヌ』で長篇映画監督デビューを果たし、本作でもその手腕を発揮しています。

映画には、ミシェル・ピコリ、ジャン・レスコー、ダヴィド・トネリといった俳優たちがオフの声でナレーションを担当。彼らの言葉が、撮影現場の緊迫感や、スターを取り巻く複雑な状況をさらに浮き彫りにします。もちろん、ブリジット・バルドーとジャン＝リュック・ゴダール自身も、このドキュメンタリー映画の中で、本人として登場しています。

『パパラッツィ』は、単なる撮影現場の記録映画ではありません。現代社会においても依然として問題となっている、プライバシー侵害やマスコミの報道姿勢といったテーマを、1963年の時点で既に鋭く問いかけています。この作品は、私たちに、スターという存在と、それを取り巻くメディアのあり方について、改めて考えさせる機会を与えてくれるでしょう。

白黒映像とモノラル録音というシンプルな手法で表現された本作は、現代の私たちに、時の流れを感じさせながらも、そのメッセージの普遍性を強く印象付ける、貴重なドキュメンタリー作品です。カプリ島の美しい風景と、その中で繰り広げられる人間ドラマは、観る者の心を深く揺さぶるでしょう。

さらに、この映画は、ゴダールやバルドーといった、映画史に名を刻む人物たちの若き日の姿を見ることができる、貴重な資料としての価値も持っています。彼らの表情や仕草、そして言葉からは、当時の映画界の活気と熱気が伝わってきます。

『パパラッツィ』は、映画ファンだけでなく、社会問題に関心のある人々にも必見の作品です。この映画を通じて、現代社会のメディアやプライバシー問題について、改めて考えてみるきっかけになるでしょう。

もう一度検索