パパ・ウェンバ

パパ・ウェンバ（Papa Wemba、1949年 6月14日 - 2016年 4月24日）は、現在のコンゴ民主共和国にあたる旧ベルギー領コンゴ出身の、アフリカを代表するシンガーソングライター、ミュージシャンである。特に、コンゴのポピュラー音楽であるスークース（リンガラ・ミュージック）の発展に大きく貢献した人物として知られる。

来歴

彼の音楽キャリアは、1960年代後半に本格的に始まった。1969年、当時ザイールと呼ばれていたコンゴ民主共和国の首都キンシャサにおいて、新しい音楽の潮流を求めるバンド「ザイコ・ランガ・ランガ（Zaiko Langa Langa）」の結成に中心メンバーの一人として参加。このバンドは、それまでのコンゴ音楽が強くキューバ音楽の影響を受けていたフランコ&OKジャズなどの第二世代に対し、ロックやソウルミュージックの要素を大胆に取り入れた「第三世代」の音楽を提示し、若者を中心に爆発的な人気を獲得した。彼らは、スークースの現代的なスタイルの基礎を築いたパイオニアと評価されている。

ザイコ・ランガ・ランガでの成功を経て、パパ・ウェンバは自身の音楽性をさらに追求するため、1970年代にはいくつかのバンドを結成・離脱を繰り返した。1974年には「イシフィ・ロコレ（Isifi Lokole）」を、翌1975年には「ヨカ・ロコレ（Yoka Lokole）」を結成。そして1977年、彼は自身の理想を具現化するバンド「ヴィヴァ・ラ・ムジカ（Viva La Musica）」を結成する。このバンドは、まだ世に知られていない若いながらも才能あふれるアーティストたちを積極的にメンバーに迎え入れ、彼らの才能を開花させる場となった。ヴィヴァ・ラ・ムジカは、パパ・ウェンバのカリスマ性とメンバーの高い演奏能力により、結成後すぐに次々とヒット曲を生み出し、特に若い世代から圧倒的な支持を得ることに成功する。彼は音楽活動に加え、映画への主演など、多岐にわたる分野でその才能を発揮した。

1980年代に入ると、パパ・ウェンバは活動の舞台を世界へと広げることを目指す。1986年、彼はフランスのパリへと拠点を移し、ワールド・ミュージック・ムーブメントの立役者として知られるプロデューサー、マルタン・メソニエのプロデュースにより、世界市場に向けた初の本格的なアルバム『Papa Wemba』を発表した。このアルバムを皮切りに、彼はセネガルのユッスー・ンドゥールやマリのサリフ・ケイタらと並び、アフリカを代表するアーティストとして世界的にその名を知られるようになる。同年には早くも日本での初公演を実現させた。

彼の国際的な成功は続き、ピーター・ガブリエルが設立した著名なワールド・ミュージック・レーベル「リアル・ワールド・レコード（Real World Records）」から、1991年に『Le Voyageur』、1995年に『Emotion』、1998年に『Molokai』という3枚のアルバムをリリースした。これにより、彼はヨーロッパを中心に世界各地で精力的に活動を展開し、母国コンゴと世界を股にかける存在となった。

しかし、そのキャリアには思わぬ試練も訪れた。2003年、コンゴ人のヨーロッパへの不法入国に関与したとして逮捕され、有罪判決を受けて3年以上にわたり収監されるという経験をした。この出来事は彼にとって大きな打撃となったが、2010年には再び音楽活動を再開し、ファンに健在ぶりを示した。

最期と遺産

2016年 4月24日、パパ・ウェンバはコートジボワールのアビジャンで開催された音楽フェスティバルに出演中、パフォーマンスの最中にステージ上で倒れた。そのまま病院に搬送されたものの、帰らぬ人となった。享年66歳だった。

パパ・ウェンバは、その革新的な音楽性だけでなく、コンゴの文化やファッションにも大きな影響を与えた。特に、彼が一流ブランドのスーツや帽子をエレガントに着こなしてステージに上がったことは、キンシャサの若者たちの間で「サップ（Sape）」と呼ばれる独特のファッションスタイルが再興し、一世を風靡するきっかけの一つとなった。また、彼自身が主演したコンゴ民主共和国の映画監督ムエゼ・ンガングラの作品『La vie est belle』（人生は素晴らしい）は、ベルリン国際映画祭などで評価されるなど、俳優としても足跡を残している。

波乱に満ちた生涯ながら、パパ・ウェンバはスークースを革新し、アフリカ音楽を世界に広めた功績、そしてファッションや映画といった文化への影響力において、コンゴ民主共和国だけでなくアフリカ全体、そして世界の音楽シーンに多大な遺産を残したアーティストである。

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