パヤオ・プーンタラット

1956年 10月18日にタイで生を受け、2006年 8月13日に惜しまれつつこの世を去ったパヤオ・プーンタラット氏は、タイのボクシング史において重要な足跡を残した元プロボクサーです。アマチュア時代にはオリンピックでメダルを獲得する快挙を成し遂げ、プロ転向後は世界王座にまで上り詰めました。

アマチュア時代の輝き

パヤオのボクシングキャリアは、アマチュアのリングで華々しく始まりました。1976年にカナダのモントリオールで開催されたオリンピックに、タイ代表としてボクシングライトフライ級で出場。世界の強豪が集まる中で、見事な戦いぶりを見せ、銅メダルを獲得するという歴史的な功績を挙げました。このメダルは、タイのボクシング界にとってはもちろん、スポーツ界全体にとっても大きな希望と栄光をもたらすものであり、彼の名は一躍祖国中に知れ渡ることとなりました。

プロキャリアの幕開けと挑戦

オリンピックでの成功を経て、パヤオは新たな挑戦としてプロボクシングの世界へと足を踏み入れます。1981年 10月4日、彼はプロデビューを果たしました。順調にキャリアを重ねたパヤオは、わずかプロ3戦目にして早くも大きなチャンスを掴みます。1982年5月8日、OPBF東洋太平洋スーパーフライ級王者であった韓国の権順天選手に挑戦しました。しかし、経験豊富な王者との一戦は判定までもつれ込む接戦となり、惜しくも判定負け。プロとして初のタイトル獲得は叶いませんでしたが、この経験は彼にとって大きな糧となったことでしょう。

世界王座戴冠

OPBF王座への挑戦から約1年半後の1983年 11月27日、パヤオはついに世界の頂点、WBC世界スーパーフライ級王座への挑戦権を得ます。チャンピオンはベネズエラのラファエル・オロノ選手。強打を誇るオロノに対し、パヤオは持ち前のスピードとテクニックで対抗しました。緊迫した世界タイトルマッチはフルラウンドの激闘となり、勝敗はジャッジの手に委ねられました。結果は2対1のスプリットデシジョンでパヤオに軍配が上がります。この勝利により、パヤオ・プーンタラットはタイ人としてWBC世界スーパーフライ級王座という輝かしいベルトを腰に巻き、世界のチャンピオンの仲間入りを果たしたのです。

初防衛戦とライバルとの激闘

世界王者となったパヤオは、その実力を防衛戦でも証明します。1984年 3月28日に行われた初防衛戦の相手は、元WBA世界フライ級王者であり、スーパーフライ級での2階級制覇を目指していたメキシコのベテラン強豪、グティ・エスパダス選手でした。しかし、パヤオはチャンピオンとしての強さを見せつけ、10ラウンドTKOによる見事な勝利を収め、王座防衛に成功。エスパダスの夢であった2階級制覇を阻むとともに、この試合を最後にエスパダスが引退するという、彼のキャリアにおける印象的な一戦となりました。

次にパヤオの前に立ちはだかったのは、日本のスーパースター、渡辺二郎選手でした。1984年 7月5日、両者は日タイのスーパーフライ級頂上決戦として対戦します。当初、この試合はWBCとWBAの王座統一戦として計画されていましたが、渡辺選手がWBA王座を剥奪されたため、パヤオにとっては自身のWBC王座の防衛戦として行われることとなりました。ハイレベルな技術を持つ両者の一戦は、最終ラウンドまで手に汗握る攻防が繰り広げられましたが、結果は1対2の僅差の判定でパヤオは敗れ、世界王座から陥落することとなりました。

再戦と現役引退

王座を失ったパヤオは、宿敵となった渡辺二郎選手とのダイレクトリマッチによる再起を図ります。1984年 11月29日、両者は再びリング上で相見えました。前回とは異なり、より攻撃的な展開となったこの再戦でしたが、パヤオは奮闘むなしく、11ラウンドTKOによる敗北を喫し、渡辺選手へのリベンジは叶いませんでした。

渡辺選手との二度の激闘の後も、パヤオはリングに上がり続けましたが、1985年 4月2日に行われた試合を最後に、プロボクサーとしてのキャリアに終止符を打ち、惜しまれつつリングを去りました。オリンピックメダリストから世界王者へ、そしてライバルとの熱戦と、パヤオ・プーンタラットのキャリアはタイのボクシング史に深く刻まれています。

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