パラサング

パラサングは、古代ペルシア語に起源を持つ距離の単位であり、主に古代イラン地域で使用されていました。その語源は、歩兵が1時間で移動できる距離を基準としたことに由来すると言われています。

紀元前5世紀の歴史家ヘロドトスや、紀元前4世紀の軍人・著述家クセノフォンは、パラサングを30スタディアと定義しました。スタディアは古代ギリシアの距離の単位であり、アッティカ地方の尺度（1スタディオン＝178.20メートル）で換算すると、1パラサングは約5.35キロメートルとなります。この数値は、現代の感覚からしても「歩兵が1時間で行軍できる距離」として妥当性があると考えられます。

パラサングという言葉は、時代や地域によって変化を遂げました。新ペルシア語では「ファルサング (farsang)」という形に変化し、アラブ世界ではアラビア語化されて「ファルサフ (farsakh)」として用いられました。これらの単位も、おおむねパラサングと同様の距離感を表していたと考えられます。

19世紀のルリスターン（現在のイラン西部）では、1ファルサングは「太鼓の音が聞こえる距離」と表現されていました。これは、当時の人々の生活において、音を距離の目安としていたことを示唆しています。音の届く範囲は、地形や気候条件によって大きく左右されますが、おおよその距離感を把握する上で役立ったと考えられます。

アラビア語のファルサフは、イスラム教の聖典であるクルアーンやハディースの中にも登場します。例えば、「フダイビーヤとはマッカから6ファルサフのところにある泉である」という記述があります。このように、ファルサフは宗教的な文脈においても、距離を表す単位として用いられていました。

ただし、1ファルサフが正確に何メートルであるかについては、様々な説が存在し、時代によっても異なるとされています。現代の一般的な見解としては、約5～6キロメートル程度とされています。これは、パラサングの起源である「歩兵が1時間で行軍できる距離」という概念と、おおむね一致しています。

このように、パラサングは古代イランに始まり、時代や地域を超えて様々な形で受け継がれてきた距離の単位です。その背景には、人々の生活や文化、そして距離に対する感覚が反映されています。

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