パラッツォ・アドリアーノ

シチリア島西部の内陸、パレルモ県の南端に位置するパラッツォ・アドリアーノ（イタリア語: Palazzo Adriano）は、人口およそ2,000人を擁する基礎自治体（コムーネ）です。この静かな小さな町は、ジュゼッペ・トルナトーレ監督による1988年の名作映画『ニュー・シネマ・パラダイス』の主な撮影地として、世界中の映画ファンにその名を知られています。

名称と歴史的背景

この町の正式名称はイタリア語で「パラッツォ・アドリアーノ」ですが、シチリア語では「パラッツゥ・アドリアーヌ」と呼ばれます。この地には、アルバニア系住民であるアルバレシュ人のコミュニティが存在した歴史があり、その文化的な影響も地名や人名に見られます。町の起源は古く、文献に最初に登場するのは11世紀後半、シチリア伯ルッジェーロ1世の治世下で「カザーレ・アリアヌム（casale Arianum）」として言及されたことに遡ります。その後、1243年の記録では、現在のパラッツォ・アドリアーノを構成する土地が30を超える荘園によって成り立ち、サンタ・マリア・ディ・フォッサノーヴァ修道院がその管理に関わっていたことが詳述されています。これは、この地域が中世において農業や宗教的な中心地として発展してきたことを示唆しています。

地理的な特徴

パラッツォ・アドリアーノは、シチリア島の西寄りの内陸部に位置しており、パレルモ県の南端にあって、アグリジェント県との県境に接しています。地理的には、コルレオーネからは南東へ約16km、アグリジェントからは北北西へ約45km、そして州都・県都であるパレルモからは南へ約48kmの距離に位置しています。コムーネの領域は特徴的で、南北に細長く、かつ複雑な形状をしています。周囲には、プリッツィ、カストロノーヴォ・ディ・シチーリア、そしてアグリジェント県に属するビヴォーナ、ルッカ・シークラ、ブルジョなど、複数のコムーネと隣接しています。この内陸の立地は、町の歴史や文化にも影響を与えています。

人口動態

パラッツォ・アドリアーノの現在の人口は約2,000人です。国立統計研究所（ISTAT）による国勢調査などの統計データは、町の人口推移を示しています。また、ISTATは居住地区を、家屋密度の高い「居住の中心地区（centro abitato）」、密度の低い「居住の核となる地区（nucleo abitato）」、そして「散在家屋（case sparse）」に分類しており、パラッツォ・アドリアーノにおいても、これらの区分に応じた人口分布が見られます。町の役場は通常、「居住の中心地区」に置かれています。

文化、観光、そして映画

パラッツォ・アドリアーノの見どころとしては、複数の歴史的な教会や聖域が挙げられます。例えば、16世紀に建てられたマリアSS・アッスンタ教会はビザンツ典礼の形式をとっており、一方、18世紀のマリアSS・デル・ルーメ教会はラテン典礼です。16世紀のマリアSS・デル・カルメロ教会はコリント式の柱を持つ門が特徴的な構造を持っています。これらの宗教建築物は、町の信仰の篤さと歴史の深さを物語っています。

しかし、この町を最も有名にしているのは、間違いなく映画『ニュー・シネマ・パラダイス』の撮影地であることです。1988年に公開されたこの映画は、シチリアの小さな村にある映画館を舞台にした物語で、世界的な成功を収めました。劇中の多くのシーンは、パラッツォ・アドリアーノの広場や通りで撮影され、映画の情緒的な雰囲気と町の美しい風景が一体となって、観客に強い印象を残しました。この映画がきっかけで、パラッツォ・アドリアーノは多くの映画ファンや観光客が訪れる場所となりました。

交通網

町の近くには国道SS188（it:Strada statale 188 Centro Occidentale Sicula）が通っています。この国道は、シチリア島西端のマルサーラから内陸部の小さな町々を経由し、さらに東へと延びていく主要な道路の一つであり、パラッツォ・アドリアーノにとって外部との重要な交通路となっています。

著名な人物

パラッツォ・アドリアーノは、いくつかの著名な人物とも縁があります。19世紀の政治家であり詩人でもあったガブリエーレ・ダラは、この町の出身者であり、彼もまたアルバニア系の家系に属していました。また、映画『ニュー・シネマ・パラダイス』で主人公トトの子供時代を演じ、その演技で一躍有名になった俳優サルヴァトーレ・カシオもこの町の出身です。さらに、イタリア王国の首相を務めたフランチェスコ・クリスピも、出身地はリベーラですが、彼の家系はパラッツォ・アドリアーノにルーツを持つアルバレシュ人であったとされています。これらの人物は、町の歴史や文化的な多様性を示す存在と言えます。

パラッツォ・アドリアーノは、その歴史ある街並みと、映画『ニュー・シネマ・パラダイス』によって与えられた特別な魅力により、訪れる人々に深い印象を与えるシチリアの隠れた宝石の一つです。

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