パルブアルブミン

パルブアルブミンとは

パルブアルブミン（Parvalbumin）は、細胞内でカルシウムイオン（Ca²⁺）と特異的に結合する性質を持つ、比較的小型のタンパク質です。アルブミンファミリーの一員として分類され、その特徴的な機能は細胞内のカルシウム濃度を感知し、調節することにあります。

構造的特徴

このタンパク質の構造は、特徴的な「EFハンド」と呼ばれるモチーフを3つ含んでいます。EFハンドは、ヘリックス-ループ-ヘリックスという基本的な構造単位から成り、カルシウムイオンを効率的に結合する役割を果たします。パルブアルブミンの構造は、細胞内カルシウムセンサーとして機能する他のタンパク質、例えばカルモジュリンやトロポニンCといった分子と類似性が見られます。

パルブアルブミンは、ドメインAB、CD、EFという3つの主要な領域に分けられます。これらのドメインそれぞれがEFハンドモチーフに対応しています。ドメインABは2つのループ領域にアミノ酸の欠損がある点が特徴的です。一方、ドメインCDとEFは、それぞれタンパク質のN末端側とC末端側を含んでいます。この安定した立体構造が、カルシウム結合機能の発揮に重要となります。

体内での分布

パルブアルブミンは、特に素早く繰り返し収縮する性質を持つ速筋線維に最も豊富に存在することが知られています。筋肉におけるその役割は、筋収縮・弛緩サイクルにおけるカルシウムイオンの迅速な取り込みと放出の調節に関わることだと考えられています。筋肉組織以外にも、脳や内分泌腺などの組織にも広く分布しています。

神経系においては、特にGABA作動性介在ニューロンに選択的に発現しています。大脳皮質では、シャンデリア細胞や籠細胞といった特定の介在ニューロンで集中的に見られます。小脳では、運動制御に重要な役割を果たすプルキンエ細胞や、分子層に位置する介在ニューロンに存在します。また、学習や記憶に関わる海馬においても、特定の錐体細胞を対象とする介在ニューロンに見られます。これらの神経細胞において、パルブアルブミンは細胞内カルシウム濃度の一時的な上昇を抑制し、神経活動のパターンや同期性に影響を与えていると考えられています。脳波におけるガンマ波の発生にも関与する可能性が示唆されています。

生理機能と役割

パルブアルブミンは、そのカルシウム結合能を通じて、細胞内のカルシウムシグナル伝達において重要な役割を担っています。細胞質内の遊離カルシウムイオン濃度を一時的に低下させる「カルシウムバッファー」として機能することで、様々な細胞プロセスを制御します。これには、筋肉の迅速な弛緩、細胞周期の適切な進行、セカンドメッセンジャー分子の産生調節、筋肉の収縮機構、そして細胞骨格である微小管の形成などが含まれます。このように、パルブアルブミンは多くの基本的な生理機能に不可欠なタンパク質です。

疾患との関連性

近年の研究により、パルブアルブミンが様々な疾患に関与している可能性が示されています。例えば、アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患、加齢に伴う認知機能の低下、さらにはある種の癌といった病態との関連が指摘されています。

特に、精神疾患の一つである統合失調症の患者において、GABA作動性介在ニューロンにおけるパルブアルブミンとGAD67（GABA合成酵素）の発現量が低下していることが報告されており、病態との関連が強く示唆されています。また、食品アレルギーの分野では、魚類に含まれる主要なアレルゲンの一つとしてパルブアルブミンが同定されています。

パルブアルブミンに関する研究は現在も進められており、その多様な生理機能や病態への関与のメカニズム解明が期待されています。

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