パルミーロ・トリアッティ

パルミーロ・トリアッティ：イタリア共産党の指導者と戦後のイタリア

パルミーロ・トリアッティ (1893-1964) は、20世紀イタリアを代表する政治家であり、イタリア共産党(PCI)の主要指導者として知られています。ジェノバの下級官吏の家庭に生まれ、トリノ大学で学び、アントニオ・グラムシらと交流した彼は、第一次世界大戦前から政治活動を始めました。

イタリア社会党を経て1921年にイタリア共産党に参加。1926年、グラムシがムッソリーニ政権によって投獄されると、党の指導的役割を担うことになります。しかし、ファシズムの台頭により、トリアッティは国外に亡命し、フランス、スペイン、ソ連を転々とする生活を余儀なくされました。ソ連ではスターリンの粛清を生き延び、コミンテルンの活動にも関与しました。

第二次世界大戦中、トリアッティはソ連を通じてイタリアのパルチザン運動を支援し、「スターリンのイタリア人」と呼ばれるようになりました。1944年、イタリアが連合国軍に降伏しムッソリーニ政権が崩壊すると、彼は帰国。バドリオ政権の副首相に就任し、PCIの方針を転換させます。これが「サレルノの転換」として知られる政策転換です。

この転換は、暴力革命ではなく、議会制民主主義の枠組みの中で社会主義を目指すというものでした。連合国軍占領下のイタリアにおいて、PCIを合法政党として位置づけ、戦後の政治プロセスに参加することを選択したのです。この戦略は、パルチザンの武装解除、連立政権への参加、そしてPCIの勢力拡大に繋がりました。

しかし、「サレルノの転換」は、常に議論の的となっています。トリアッティが、連合軍による治安維持の状況下で、パルチザンによる報復行為を黙認あるいは支援していたという指摘があり、特にムッソリーニ処刑への関与についても、様々な解釈がなされています。彼自身は処刑命令を下したと主張しましたが、政府としての公式な承認はなかったとされています。

1945年12月、デ・ガスペリ内閣でトリアッティは法務大臣に就任。パルチザンの武装解除、元パルチザンのPCIへの組織化、イタリア労働総同盟(CGIL)の結成などを通して、共産党の基盤を固め、勢力を拡大しました。1946年の総選挙でPCIは第3党となり、国民投票による共和政移行にも貢献します。

しかし、マーシャル・プランへの反対や東西冷戦の激化により、1947年に連立政権から離脱。翌年の総選挙では、キリスト教民主主義の激しい反共キャンペーンの影響を受け、議席を減らす結果となりました。1948年には暗殺未遂事件にも遭っています。

その後、PCIは連立政権に参加することはありませんでしたが、トリアッティの指導の下、政策を現実的に修正し、中道左派への支持層拡大を目指しました。これは、イタリア共産党をヨーロッパ最大級の「統治しない共産党」へと成長させ、後の「ユーロコミュニズム」にも影響を与えました。多くの地方自治体を運営し、イタリア社会に大きな影響力を及ぼしました。

1964年、ソ連訪問中に急死。彼の功績を称え、ロシアの都市トリヤッチは彼の名にちなんで命名されました。トリアッティの生涯は、イタリア共産党の歴史、戦後のイタリアの政治状況、そして冷戦という国際情勢が複雑に絡み合ったものであり、彼の業績や政治的立場は、現在でも様々な解釈と議論を呼び続けています。彼の功績と、その複雑な歴史的文脈を理解することは、イタリア現代史を理解する上で欠かせません。

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