パルメニデス (対話篇)

プラトンの『パルメニデス』：イデア論とエレア派哲学の邂逅

『パルメニデス』は、プラトンの後期対話篇の一つであり、「イデアについて」という副題を持つ作品です。本篇は、多重間接話法という独特の構成を用いて、若き日のソクラテスと老年のパルメニデス、そしてゼノンとの出会いと対話を描いています。この対話を通して、プラトンはソクラテスのイデア論が抱える問題点を浮き彫りにし、哲学的探求のあり方、特に論理的思考の重要性を示唆しています。

物語の枠組み：多重伝聞の妙技

物語は、クラゾメナイのケパロスがアテナイでプラトンの兄弟と出会い、彼らの異父弟アンティポンから聞いた話を、読者に語るという形で展開します。アンティポンは、アテナイ人ピュトドロスから、かつてソクラテス、パルメニデス、ゼノンが交わした会話を聞いており、その内容をケパロスに伝えています。この多重伝聞という構成は、物語に虚実織り交ぜた奥行きを与え、プラトンの意図を読み解く上で重要な要素となります。

パンアテナイア祭と出会いの場

紀元前450年頃、パンアテナイア祭のためにアテナイを訪れたパルメニデスとゼノンは、ピュトドロスの家に滞在していました。当時青年だったソクラテスは、ゼノンの論文の朗読会に参加し、その内容について質問を投げかけます。その場にパルメニデスが加わり、ソクラテスとの問答が始まります。

ソクラテスとゼノンの対話：存在論をめぐる議論

ソクラテスは、ゼノンの論文が「存在は一つである」というパルメニデスの主張を裏付けるものだと指摘します。ゼノンは、若い頃の対抗意識から書いたものであり、師の説を隠された形で証明しようとしたわけではないと反論します。この議論を通して、存在の「一」と「多」の問題が提起されます。ソクラテスは、イデア論を導入し、「類似」や「不類似」といった形相が独立に存在すると主張し、それによって「一」と「多」の両立可能性を示唆します。

ソクラテスとパルメニデスの対話：イデア論への批判的検討

ソクラテスの議論の後、パルメニデスは、イデア論の難点について、幾つかの鋭い批判を展開します。

全体と部分: イデアが全体として分有されるのか、部分として分有されるのかという問題。
包含と再生成: イデアの包含関係が無限に続く可能性。
観念と対象: イデアが心の中の観念であるならば、その対象との関係はどうなるのか。
類似と分裂: 類似物から新たなイデアが生じる可能性。
区別と不可知: イデアが区別された存在であるならば、それは不可知なものとなる。
本質と関係性: 本質的特徴が関係性によって成立するものの説明。
知識と不可知: イデアが不可知である場合、知識も不可知となる。
神と分断: イデアを完全に把握する存在は神のみだが、そうなると神と人間は分断される。

パルメニデスは、イデア論には多くの難点があり、その説得は容易ではないと指摘します。しかし同時に、イデアのようなものを全く認めなければ、哲学的探求自体が不可能になるとも述べています。

哲学の「予備練習」：論理的思考の鍛錬

パルメニデスは、哲学的探求においては、対象を様々な角度から徹底的に検討する「予備練習」が重要だと主張します。それは、肯定的な前提だけでなく、否定的な前提も考慮し、帰結についても「補集合」を含めて考察することなどを含みます。

パルメニデスとアリストテレスの対話：実践的な思考訓練

パルメニデスは、「一」を題材に、青年アリストテレスを相手に「予備練習」を実践します。「一」の存在と非存在、そして「一」以外のものの存在と非存在を様々な観点から検討することで、一見矛盾した結論に到達します。この奇妙な結論は、哲学的探求の難しさと奥深さを象徴的に示していると言えるでしょう。

『パルメニデス』の意義

『パルメニデス』は、イデア論の課題を明らかにすると同時に、哲学的探求のあり方、特に論理的思考の重要性を説いています。多重伝聞という手法や、パルメニデスによるイデア論への批判、そして「予備練習」を通して示された徹底的な論理的思考は、後のプラトン哲学、そして西洋哲学全体に大きな影響を与えました。この作品は、プラトンの哲学における重要な転換点であり、後続する作品群へとつながる重要な鍵を握る作品と言えるでしょう。

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