パンスターズ

パンスターズ計画：全天サーベイによる宇宙探査

パンスターズ（Panoramic Survey Telescope And Rapid Response System）計画は、地球近傍天体の発見を主な目的とした、大規模な全天サーベイ観測計画です。ハワイ州マウイ島ハレアカラ山頂に設置された4台の1.8m望遠鏡を用いて、継続的に全天をサーベイ観測することで、小惑星、彗星、変光星、さらには太陽系外縁天体や銀河系外天体といった様々な天体の発見を目指しています。

計画の概要

パンスターズ計画の中核となるのは、4台の望遠鏡による同時観測です。各望遠鏡は同一方向を観測し、得られた画像を比較することで、CCDチップのノイズや宇宙線などの影響を除去し、高精度の画像合成を実現します。この手法により、口径3.6mの望遠鏡と同等の観測能力を得ることができます。

計画の第一段階として、PS1と呼ばれる望遠鏡が2008年12月に観測を開始しました。PS1は、14億ピクセルのデジタルカメラを搭載し、3度の広視野を誇ります。これは同等の口径を持つ望遠鏡に比べて圧倒的に広く、短時間で広範囲の観測を可能にしています。

PS1は、ハワイ大学天文学研究所、マサチューセッツ工科大学リンカーン研究所、Maui High Performance Computing Center、Science Applications International Corporationといった機関の共同プロジェクトであり、アメリカ空軍からの資金提供を受けています。PS1の運用は、PS1サイエンスコンソーシアム(PS1SC)によって行われ、世界各国の一流研究機関が参加しています。

観測手法とデータ処理

パンスターズは、6種類のフィルターを用いて、可視光から近赤外線領域の観測を行います。1枚の画像は2GB、露光時間は30～60秒で、24等級までの天体を捉えることができます。毎晩10テラバイトもの膨大なデータが取得されるため、画像データそのものは保存されず、天体の位置と明るさの情報のみが抽出、保存されます。このデータは、事前に取得した変光しない天体のデータベースと比較され、明るさや位置の変化を示す天体が特定されます。

広視野と短い露光時間により、毎晩6000平方度もの天域を撮影でき、約5夜で全天をカバーすることができます。月明かりなどの影響を除けば、月間4回全天サーベイを実現するこの計画は、観測天文学史上前例のない大規模なものです。

科学的成果への期待

パンスターズ計画は、既存技術を用いた大規模プロジェクトであり、多くの科学的成果が期待されています。例えば、小惑星の発見においては、LINEAR計画よりも5等級暗い天体まで観測可能であり、全天を対象とするため、はるかに多くの小惑星を発見できると予想されます。

具体的には、小惑星帯の小惑星、トロヤ群小惑星、エッジワース・カイパーベルト天体、ケンタウルス族小惑星、彗星などが多数発見されると期待されています。また、現在の観測では偏りが生じている軌道傾斜角や近日点距離といったパラメータについても、より包括的なデータが得られることで、太陽系の理解が深まるでしょう。

太陽系外縁部では、冥王星よりも大きなエッジワース・カイパーベルト天体や、太陽系を通過する未知の天体、小惑星同士の衝突現象などが発見される可能性もあります。

銀河系外では、近傍銀河の変光星、矮小銀河、Ia型超新星、ガンマ線バーストの残光などが多数発見されることで、宇宙の進化やダークエネルギーの研究に貢献します。さらに、太陽系外惑星の発見、褐色矮星や白色矮星といった暗い天体の発見など、様々な分野での進展が期待されています。

軍事機密との兼ね合い

パンスターズ計画は、アメリカ空軍研究所(AFRL)からの資金援助を受けているため、当初は軍事機密に関わる人工衛星の航跡を検閲する必要がありました。しかし、検閲ソフトウェアによる誤検知がデータの科学的有用性を低下させたことから、2011年には検閲要求が取り下げられ、現在は検閲処理は行われていません。

パンスターズ計画の意義

パンスターズ計画は、全天を系統的かつ継続的に観測することで、これまで知られていなかった様々な天体を発見し、太陽系や銀河系、宇宙全体の理解を大きく進展させることが期待されています。その大規模なデータセットは、今後の天文学研究において貴重な資源となるでしょう。

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