パンターリカの岩壁墓地遺跡

パンターリカの岩壁墓地遺跡は、シチリア島南東部、アナポ川とカルチナラ川が刻む渓谷に位置する古代のネクロポリスです。この遺跡は、紀元前13世紀から紀元前7世紀にかけての5000基以上もの墓が岩壁に掘られ、広大な地域に広がっています。

地理と自然

パンターリカは、アナポ川とカルチナラ川によって形成された渓谷に囲まれた台地にあります。この地域は、観光客がアクセスしやすい小道が多く、豊かな自然に囲まれた場所です。アナポ渓谷は、シラクサとヴィッツィーニを結ぶ古代の道に沿っており、約10kmの遊歩道が整備されています。また、この地域は3つの自然保護区（Riserva Naturale Orientata Pantalica, Valle dell'Anapo, Torrente Cava Grande）に指定されており、自然環境の保全にも力が入れられています。

世界遺産としての登録

パンターリカのネクロポリスは、シラクサの古代都市遺跡と共に「シラクサとパンターリカの岩壁墓地遺跡」としてユネスコの世界遺産に登録されています。登録範囲は205.86haに及びます。
紀元前13世紀初頭、シケル人やイタリア半島から渡来した人々がこの地に移住すると、海岸部の集落は姿を消しました。先住民たちは防衛上の理由から丘の上や山間部に避難し、集団生活を営むようになりました。古代の記録によると、ヒブロン王が紀元前728年にメガラ・ヒュブラエアを創建しましたが、紀元前664年にシラクサが勢力を拡大し、王国は衰退しました。この時代の名残として、アナクトロンと呼ばれる宮殿跡や、岩壁に掘られた約5000もの墓が残されています。
ネクロポリス周辺は、マグナ・グラエキア時代から中世初期にかけて人々が居住していましたが、侵入してきた異民族や海賊によって追い払われました。その後、サラセン人がこの地に安住の地を求め、難攻不落な場所に移り住みました。今日でも、ビザンティン帝国時代に岩の中に築かれた住居跡や、壁画が残るクロチフィッソ洞窟、サン・ニコリッキョ洞窟、サン・ミチダリョ洞窟などの小さな礼拝堂の遺跡を見ることができます。

パンターリカのネクロポリス

パンターリカには、複数のネクロポリスが広範囲に点在しています。

フィリポルトのネクロポリス (Necropoli di Filiporto)
フェルラから9kmの位置にあり、紀元前13世紀から紀元前9世紀の墓が多数残されています。丘の中腹やアナポ盆地など、都市の最終段階の姿をとどめる地域に広がっています。

ノルド＝オヴェストのネクロポリス（Necropoli di Nord-Ovest）
紀元前12世紀から紀元前11世紀のもので、この地域で最も古いネクロポリスの一つです。

カヴェッタのネクロポリス (Necropoli della Cavetta)
紀元前9世紀から8世紀の遺跡ですが、この一帯にはビザンティン帝国時代の建造物群も残っています。

北のネクロポリス (Necropoli Nord)
紀元前12世紀から紀元前11世紀頃のネクロポリスで、最も広大な範囲を誇ります。

アナクトロンの宮殿 (Palazzo dell’Anaktoron)
大きな石を積み重ねた巨石建造物で、複数の長方形の部屋があります。ミュケーナイ文化様式の宮殿を模倣した建築様式であり、専門家の中には、シチリアにミュケーナイ人の作業場があった可能性を示唆する者もいます。この宮殿は紀元前12世紀から11世紀に建造され、パンターリカ遺跡の中でも初期に属すると考えられています。

世界遺産登録基準

シラクサの古代ギリシャ都市遺跡とパンターリカの墓地遺跡は、古代地中海文明の一時期を示す重要な証拠として世界遺産に登録されました。以下の基準を満たしたことが評価されています。

(2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
(6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの（この基準は他の基準と組み合わせて用いるのが望ましいと世界遺産委員会は考えている）。

パンターリカの岩壁墓地遺跡は、古代シチリアの歴史と文化を理解する上で非常に重要な遺跡であり、その価値は世界的に認められています。

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