シケル人

シケル人：古代シチリアの住人

シケル人（シケロイ人）は、鉄器時代にシケリア島東部に居住していた古代イタリック人の一派です。彼らは西側のシカニ人と隣接していました。シケリア（シチリア）という地名はシケル人に由来しますが、彼らはやがてマグナ・グラエキアの文化と融合し、民族としての独自性を失いました。

歴史

考古学的発掘調査から、青銅器時代のシケリア島はミケーネ文明の影響を受けていたことがわかっています。シケル人に関する最初の記述は、ホメロスの『オデュッセイア』に見られます。ホメロスは同書でシカニ人についても言及していますが、両者を明確に区別していません。

古典作家トゥキディデスによれば、シケル人はかつてイタリア半島の中央部、東部、さらにはローマより北部にまで居住していました。しかし、ウンブリア人やサビニ人からの圧迫を受け、最終的にシケリア島へ渡ったとされています。彼らの社会組織は部族的で、経済は農業に依存していました。ディオドロスによれば、シケル人はシカニ人と何度も争い、最終的にサルソ川が両者の境界となりました。

一般的な推定では、シケル人はシカニ人よりも後にシケリア島に渡来し、青銅器時代のシケリア島に鉄と家畜化された馬をもたらしたと考えられています。シケル人のシケリア島渡来はおそらく紀元前1000年代の初め頃と思われます。しかし、紀元前13世紀のカルナック神殿の碑文には、海の民の一部族の名称として「シェケルシュ」というものが記録されており、その民族名が鉄器時代以前に遡る証拠とも考えられます。

シラクサ近郊にある世界遺産、パンターリカの岩壁墓地遺跡はシケル人の遺跡としてよく知られています。また、ノート近郊のカッシビルのネクロポリスも重要な遺跡です。これらの遺跡には、渓谷の崖に多数の「オーブン型」の穴が掘られており、独特の景観を呈しています。

シケル人の主な都市としては、アグリウム（現在のアジーラ）、ケントリパ（現在のチェントゥーリペ）、ヘンナ（現在のエンナ）、そしてヒュブラと呼ばれるいくつかの都市（ヒュブラ・ゲレアティス、ヒュブラ・マジョール、ヒュブラ・マイノール、ヒュブラ・ヘラエア）がありました。

ギリシア人による植民が始まると、シケル人は海岸沿いから内陸部へと追いやられました。イオニア海から60キロメートル程内陸のモルガンティナでは、シケル人とギリシア人が隣り合って住んでおり、この都市がギリシア人のポリスなのかシケル人の都市なのか、歴史家の間で議論となっています。ギリシアの品物、特に陶器はシケル人も広く使用し、シケル人の都市計画にもギリシアの影響が見られます。

紀元前5世紀の中頃、ドゥケティオスというシケル人の指導者が、シュラクサイに対抗するためいくつかの都市を統合した統一「国家」を築きました。この「国家」は数年間独立を保ちましたが、紀元前450年にギリシア人に敗北し、ドゥケティオスもその10年後に亡くなりました。彼の死後、シケル人は急速にギリシア化され、その独自性を失っていきました。しかし、トゥキディデスによれば、紀元前426年から紀元前425年にかけてのアテナイによるシケリア遠征の際、シケル人はアテナイと協力しました。

言語

言語学的研究から、シケル語はインド・ヨーロッパ語族の言語であったと考えられています。シケリア島東部とイタリア南部で使用されていたと推測されます。一方、シケリア島中央部にはシカニ人、シケリア島西部にはエリミ人が居住していました。シカニ人の言語は不明ですが、最近の研究ではエリミ人がイタリック語を使用していたことが確認されています。

シケル語についてわかっていることは多くありません。古代の作家の記述やごくわずかな碑文から得られた情報しかなく、それら全てが実際にシケル語であるという確証もありません。シケル人はギリシア人と接触する以前には文字を持っていなかったと考えられています。

シケル語の碑文は、アドラノン、チェントゥーリペ、ポイラなど、シケリア島各地で発見されています。最初に発見されたのは1824年のチェントゥーリペで、99文字のギリシア文字で書かれたものでした。紀元前6世紀または紀元前5世紀頃の書体で書かれており、その解読は未だ成功していません。

シケル語がインド・ヨーロッパ語族である証拠としては、「pibe」（飲む）という動詞が挙げられます。この単語はラテン語の「bibe」やサンスクリット語の「piba」と同じ語源を持つと考えられます。しかし、「pibe」という単語だけでは、シケル語がインド・ヨーロッパ語族であると断定することはできません。イタリック語派、おそらくラテン・ファリスク語群に属する可能性も排除できません。共和政ローマの学者マルクス・テレンティウス・ウァロによれば、シケル語はラテン語に近く、多くの単語が同じ意味を持っていたとされています。

神話

シケリアの双子の神パリキに関する神話は、ギリシア神話の影響を受けています。シケリアの精霊タリアが火の神アドラヌスの子供を身ごもると、ヘーラーはこれに嫉妬し、ガイアにタリアを飲み込むように依頼しました。その後、大地が割れて双子の神が生まれたとされています。双子の神は、シチリアで航海と農業の守護神として崇拝されました。

パルシの父であるアドラヌスの神殿では、シケル人は永遠に炎を焚いていました。ヒュブラ神の名を持つ都市のうち、ヒュブラ・ゲラエティスにはその聖域がありました。デーメーテールとコレーのエンナとの関係、精霊アレトゥーサとシュラクサイの関係は、ギリシアの影響を受けたものです。

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