パンパスギツネ

パンパスギツネ：南米パンパの夜行性捕食者

パンパスギツネ（Lycalopex gymnocercus）は、南アメリカ大陸の広大なパンパに生息するイヌ科の動物です。和名や英名（Pampas fox）に「キツネ」と付きますが、キツネ属ではなく、系統的には他のイヌ科動物と近縁です。クルペオギツネとよく似た体型をしていますが、鼻筋がより幅広く、頭部と首の毛皮は赤みを帯び、鼻先には黒い模様が特徴的です。

分布と生息環境

アルゼンチン北部と中部、ウルグアイ、ボリビア東部、パラグアイ、ブラジル南部といった南米の広い範囲に分布しています。開けたパンパを主な生息地としていますが、農地周辺や低山帯、湿地帯、さらにはチャコの森林など、様々な環境で見られます。標高1000メートル以下の地域に最も多く生息していますが、標高3500メートルに達するプーナ草原でも確認されており、環境への適応能力の高さが伺えます。

形態

体長は51～80センチメートル、体重は2.4～8キログラムで、雄の方が雌よりも約10％大きい傾向があります。毛皮は短く密生しており、背から尾にかけて黒い縞模様が走ります。腹部は白っぽい色をしています。耳は大きく幅広い三角形で、外側は赤みがかっていますが、内側は白い色をしています。脚は、内側は腹部と同じような薄い色ですが、前肢の外側は赤みがかかり、後肢の外側は灰色をしています。後肢の下部にははっきりとした黒い斑点があります。全体的な体色は赤褐色で、黒い縞模様とのコントラストが美しいです。

生態

パンパスギツネは、主に夜行性ですが、昼間に活動することもあります。通常は単独で生活していますが、繁殖期には一夫一妻でペアを形成し、共同で子育てを行います。巣穴は、地面に掘られた洞穴、樹洞、あるいはビスカッチャやアルマジロなどの他の動物の放棄された巣穴など、様々な場所を利用します。縄張りのマーキングは、特定の場所に排泄物をためることで行います。興味深いことに、子育て期間中であっても、狩りは単独で行うようです。行動圏は平均して約2.6平方キロメートルですが、個体差が大きいとされています。

食性

パンパスギツネはイヌ科の中でも特に雑食性が強く、日和見的に様々なものを食べます。主な餌は鳥類、齧歯類、ノウサギなどの小動物ですが、果実や腐肉、昆虫なども食べます。さらに、トカゲ、アルマジロ、カタツムリなどの無脊椎動物、時にはヒツジや地上営巣性鳥類の卵を捕食することもあります。一方で、ピューマや野犬などの捕食者にも襲われる危険性があります。

繁殖

繁殖期は早春で、妊娠期間は約55～60日です。1回の出産で最大8頭の仔を産みます。仔ギツネは9月から12月頃に生まれ、約2ヶ月で離乳します。メスは1歳で性的に成熟します。飼育下では最長14年生きた記録があります。

人間との関わりと最新の発見

近年、ブラジルでパンパスギツネとイヌの交雑種が発見されました。この交雑種は「ドッグシム（Dogxim）」と名付けられ、イヌとパンパスギツネ（ポルトガル語で「graxaim do campo」）の混血であることを示しています。この発見は、人間活動が野生動物の遺伝的多様性に与える影響を考える上で重要な知見となります。

パンパスギツネは、南米パンパの生態系において重要な役割を果たす動物であり、その生態や保全に関する研究は今後も継続していく必要があります。

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