パン・デピス

パン・デピス (Pain d'épices)

パン・デピスは、フランスにおける伝統的な菓子であり、香辛料をたっぷりと使用し、主に蜂蜜を甘味料として使ったパンです。名前の由来である「エピス（Épice）」はフランス語で香辛料を意味し、その特徴的な風味に寄与しています。

材料と製法

パン・デピスには、クッキーに近いものとケーキに近いものの2種類があります。具体的には、小麦粉と卵黄を使用したものと、ライ麦粉あるいはその混合粉を用いるものです。これらの菓子にはバターが使われず、主な甘味は蜂蜜によるものです。特にディジョンのタイプは小麦粉と卵黄を使用し、ランスのものはライ麦粉が主体です。

香辛料としては、シナモン、ナツメグ、アニス、クローブなどが多く用いられ、場合によっては砂糖漬けした果物が加えられることもあります。1694年に発行された『アカデミー・フランセーズ辞典』では、パン・デピスを「ライ麦粉、蜂蜜、香辛料で作られるケーキ」と定義しています。特にイギリスでは、ショウガの香りが好まれるため、パン・デピスはジンジャーブレッドとして広く知られています。

パン・デピスの生地作りは、まず小麦粉と蜂蜜（または他の甘味料）を混ぜ、乾燥した冷暗所で約一ヶ月をかけて熟成させます。その後、ベーキングパウダーと香辛料を加えて成形し、最後に表面に牛乳と卵黄を塗り、焼き上げて完成します。通常は円形または四角形の形状をしていますが、動物の形をした焼き型も使用されています。また、パン・デピスは料理にも用いられることがあり、特にビールを使った料理のとろみ付けに利用されることが多いです。

歴史

パン・デピスの起源はおそらく10世紀頃の中国の宋に遡ります。当時の兵士たちが食べていた「ミ・コン（ミー・キン）」がそのルーツとされ、モンゴルや中東を経て11世紀頃に十字軍によってヨーロッパに持ち込まれました。その後、ハンガリー、ドイツ、オランダ、ベルギーなどの地域で広く食べられるようになったのです。

「ミ・コン」は、小麦粉と蜂蜜を混ぜたパンに似た食べ物で、香辛料が必ずしも加えられていたわけではありません。しかし、ヨーロッパに伝わる過程で香辛料が次第に取り入れられていきました。13世紀には、フランドル地方でレーベンスクーヘンという、ミ・コンに類似した菓子が存在し、修道院がその製造の中心としてぷらぷらしていました。

特に修道院では、パン・デピスが贈物として使われており、型には各修道院の特色が表れていました。このように、パン・デピスの製造技術は世俗に支持され、シンボルや神話に基づく焼型が次々と創作されました。15世紀にはスイスのベルンの職人が、糖衣で文字を書いたり、版画を貼ったりする方法を生み出しました。

18世紀末には、動物や人の形をかたどったパン・デピスが現れ、1827年にはパリの動物園でキリンの型をしたパン・デピスが流行しました。また、11世紀以降、パリではパン・デピスの市が開かれ、修道士たちがほかの形を持つパン・デピスを売っていました。

フランス各地で作られるようになり、特にアルザスやブルゴーニュのディジョンが有名に。ブルゴーニュには14世紀に到達し、フランドルからフィリップ2世やマルグリット3世の影響でより一般的になったとされています。パン・デピスの製造は特にランスで盛んで、1596年に設立されたギルドがフランス王によって公認されました。

このように、パン・デピスは長い歴史を持ちながら、今もなお多くの人々に愛され続けているフランスの菓子です。

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