パーム (企業)

パーム(Palm, Inc.)の軌跡：革新的なPDAとスマートフォンの開発

パーム（Palm, Inc.）は、かつて携帯情報端末（PDA）やスマートフォン「Palm」シリーズで知られたアメリカの企業です。その歴史は、ソフトウェア会社としての設立から始まり、独自のハードウェア開発、そしてオペレーティングシステムの進化へと続いています。この記事では、パームの設立からヒューレット・パッカード（HP）による買収、そしてその後の展開までを詳しく解説します。

設立と初期の苦難

1992年1月、ジェフ・ホーキンスとドナ・ドゥビンスキーによって、カリフォルニア州サニーベールでPalm Inc.が設立されました。当初はソフトウェア会社として、カシオ計算機が開発したPDA「Zoomer」のアプリケーションと手書き認識機能の開発を担当しました。しかし、「Zoomer」は市場で成功を収めることができず、パームは自社でハードウェアを開発することを決断しました。

1994年9月には、手書き文字認識ソフト「Graffiti」を開発し、Appleの「Newton」などに採用されました。同時期に自社ハードウェアの仕様とモックアップも完成させ、筐体サイズを決めるためにホーキンスがワイシャツの胸ポケットを採寸して回ったという逸話も残っています。しかし、量産化のための資金が不足していたため、1995年9月にUSロボティクスに買収され、社名もPalm Computingに変更となりました。

Palm Pilotの登場と成功

1996年1月、USロボティクスから「Pilot」が発表され、同年4月に「Pilot 1000」と「Pilot 5000」が発売されました。この「Pilot」は、その使いやすさと革新性から市場で大ヒットし、発売から1年半で100万台を売り上げ、当時のPDA市場の3分の2を占めるまでになりました。

日本では「Palm Pilot」として販売されましたが、商標権侵害の問題から一時的に販売が中止されました。しかし、その後和解が成立し、新製品からは「Pilot」という名称は使用されなくなりました。

Handspringの設立とパームの変革

1998年8月、創業者のホーキンスとドゥビンスキーはPalm Computingを辞任し、新たにHandspring, Inc.を設立しました。HandspringはPalm OSのライセンスを受け、Visorという低価格なハードウェアを発売しました。Visorは独自の拡張スロットSpringboardを搭載しており、Palm OSのライセンスを受けた初のサードパーティーとなりました。Handspringはその後、スマートフォンなどの通信機能を内蔵した一体型デバイスへと戦略を転換していきました。

2000年、Palmは3Comから独立し、社名をPalm (Palm inc.)とし、株式を公開しました。その後、マイクロソフトによる買収が試みられましたが、実現しませんでした。

ソフトウェアとハードウェアの分離

2001年前後、売上悪化に悩むPalm社は、ソフトウェア部門とハードウェア部門を分離させる決断をしました。これにより、ソフトウェア部門（後のPalmSource）は、Palm OSを使用する全てのPDAメーカーに対して中立的な立場で開発に専念することが可能になりました。2003年には、Handspringを買収し、ホーキンス、ドゥビンスキー、コリガンが復帰しました。ハードウェア部門はpalmOneという新社名となり、Palm OSのブランドはpalmOneとPalmSourceの運営する持ち株会社に帰属しました。

palmOneから再びPalmへ

2005年、palmOneはPalmSourceから「Palm」ブランドの全権を取得し、社名をPalmに変更しました。その後、「Palm TX」や「Z22」などの新製品を発売し、2006年にはWindows Mobile搭載のスマートフォン「Treo 700w」を発売するなど、スマートフォン市場への取り組みを強化しました。

スマートフォン市場への挑戦

2007年秋には、アメリカ第三位の携帯電話キャリア、スプリント・ネクステルからスマートフォン「Palm Centro」を発売しました。Palm Centroは、Treo以外の製品としては初のスマートフォンであり、携帯電話からスマートフォンへの移行を検討している新たな顧客層を取り込むことを目指しました。

ヒューレット・パッカードによる買収とwebOS

2010年4月28日、ヒューレット・パッカード（HP）による買収合意が発表され、同年7月1日にパームはHPの完全子会社となりました。パーム部門は、スマートフォンやタブレット機器市場に対応するため、新たなオペレーティングシステム「webOS」を開発しましたが、2011年8月にHPはwebOS関連機器の開発からの撤退を発表しました。

しかし、同年9月に就任したメグ・ホイットマンCEOが事業継続に方針転換し、12月9日にwebOSのオープンソース化を発表しました。

パームの製品群

パームは、多くの革新的な製品を世に送り出しました。以下に主な製品をまとめます。

PalmPilotシリーズ:
Pilot 1000
Pilot 5000
PalmPilot Personal
PalmPilot Professional

Palmシリーズ:
Palm III, IIIe, IIIx, IIIxe, IIIc
Palm V, Vx, VII, VIIx
Palm m100, m105, m125, m130
Palm m500, m505, m515
Palm i705, TX, Z-22

webOS搭載機:
Palm Pre
Palm Pre 2
Palm Pixi

Palm Tungstenシリーズ:
Tungsten E, E2, T, T2, T3, T5, W, C, TX

Palm Zireシリーズ:
Zire, Zire 21, Zire 31, Zire 71, Zire 72

Palm Treoシリーズ（スマートフォン）:
Treo 90, 180, 180g, 270, 300, 600, 650, 700w, 700p, 700wx, 680, 750, 750v, 755p, 500v, 800w, Pro

その他:
LifeDrive (4GB MicroDrive搭載)
Palm Centro

まとめ

パームは、PDAのパイオニアとして、その革新的な製品で市場を牽引しました。手書き文字認識技術、使いやすいインターフェース、そして「Palm Pilot」の成功は、その後のモバイルコンピューティングの発展に大きな影響を与えました。HPによる買収やwebOSのオープンソース化など、紆余曲折を経ながらも、パームは技術革新への情熱と挑戦を続けた企業として、その名は歴史に刻まれています。

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