パーム病院

パーム病院

パーム病院（パームびょういん）は、明治時代初期、新潟県新潟市（現在の新潟市中央区）に存在した、スコットランド一致長老教会の医療宣教師トーマス・アナンド・パーム（Thomas Annand Palm）によって設立されたキリスト教精神に基づく病院です。

開設と活動の背景

パームは明治7年（1874年）4月、スコットランド一致長老教会の派遣宣教師として、英国聖公会宣教会のジョン・パイパーら一行と共に新潟の地を踏みました。彼は湊町3丁目に借りた日本家屋に居を構え、そこを診療所として医療活動とキリスト教の伝道を開始します。

パームの医療技術は当時としては画期的なものでした。特に、エディンバラ大学でリスター教授に師事した際に習得したリスター式防腐法を用いた手術は、術後の化膿を防ぎ、それまで困難であった手術の生存率を飛躍的に向上させました。この卓越した医療技術は、「パーム先生にかかれば、死者さえも生き返る」とまで言われ、地域住民から絶大な信頼を集めました。また、その人柄と医療への真摯な姿勢から、地元の人々からは親しみを込めて「パンの医者」や「パンの病院」と呼ばれました。彼の活動は多忙を極め、記録によれば、明治11年（1878年）には年間174件の手術を行い、医療費収入は319を記録しています。医療助手としては、旧村上藩の大和田清晴などが彼の活動を支えました。

パーム病院の設立

順調に活動を続けていたパームでしたが、明治13年（1880年）8月6日に発生した明治新潟大火により、湊町の診療所は惜しくも焼失してしまいます。落胆するパームを支援したのは、母体であるエディンバラ医療宣教会でした。彼らの迅速な援助を受け、パームは焼失した診療所の跡地近く、南浜通り2番町に新たな病院を建設します。これが、後に「パーム病院」として知られるようになる施設です。

パーム病院は医療の場であると同時に、キリスト教伝道の拠点ともなりました。明治17年（1884年）には、後に同志社大学神学部長となる沢山保羅が入院生活を送りながら、この地で伝道活動を行った記録も残っています。

病院の閉鎖

パームは明治18年（1885年）に日本を離れることとなります。その後任として、アメリカン・ボードから医療宣教師ドリマス・スカッダー（Doremus Scudder）が新潟に派遣されます。しかし、スカッダーは自身の使命を医療活動ではなく、伝道と教育に置いたため、パーム病院での診療活動を継続しませんでした。これにより、パーム病院は同年中に閉鎖されることとなります。

わずか設立から5年という短い期間の存在でしたが、パーム病院とその前身である診療所は、創設者T・A・パームの先進的な医療技術と献身的な活動によって、当時の新潟における医療水準の向上と、地域住民の健康維持に大きく貢献しました。また、キリスト教伝道の拠点としても重要な役割を果たしました。その功績は、地域の人々に「パンの医者」として親しまれた記憶と共に語り継がれています。

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