ヒア & ゼア こことよそ

ジャン＝リュック・ゴダールとアンヌ＝マリー・ミエヴィルという、フランス映画界を代表する巨匠2人による合作映画『ヒア＆ゼア こことよそ』(Ici et Ailleurs, 1976年)。この作品は、ゴダール監督のキャリアにおいて重要な転換期を象徴する作品として知られています。

それまでのゴダール作品は、政治的メッセージを強く打ち出した作品が多かったのですが、『ヒア＆ゼア こことよそ』では、その方向性に変化が見られます。政治的な主張は影を潜め、代わりにゴダール監督は、映像表現そのもの、そして人々が自分自身や他者とどのように関わっているのか、といった人間の内面を探求することに焦点を当てています。

この映画製作において特筆すべき点は、ゴダール監督がビデオ技術を積極的に取り入れた点です。それまでの映画製作手法とは一線を画す、実験的な試みと言えるでしょう。ゴダール監督は、ビデオという新たな表現媒体の可能性を追求することで、自身の映画表現の可能性を大きく広げました。

さらに興味深いのは、この作品が1970年製作の親パレスティナ映画『勝利まで』のフッテージを使用している点です。ゴダール監督は『勝利まで』で既に自身の政治的スタンスを示していましたが、『ヒア＆ゼア こことよそ』では、過去の政治的活動と、新たな内省的な視点との橋渡しを試みているように見えます。

『ヒア＆ゼア こことよそ』は、単なる政治映画の枠を超え、人間存在や映像表現の本質に迫る、実験的な意欲作です。この作品は、ゴダールの初期のラジカルな作品群と、後のビデオ中心の作品群を繋ぐ重要な作品であり、同時に、ジガ・ヴェルトフ集団の理想や手法に対する批評的な視点を内包しています。

また、この作品はゴダールとミエヴィルの最初の共同作品であり、ミエヴィルは現在でもゴダールの制作活動において重要な役割を担っています。この共同作業は、映画製作における新しい創造性と、互いの才能を補完し合う力強いパートナーシップを示しています。

『ヒア＆ゼア こことよそ』は、ゴダール監督の豊かな創造性と、実験精神、そして人間に対する深い洞察が凝縮された作品です。単なる映画鑑賞という枠を超えて、映像表現や人間存在について深く考えさせられる、非常に意義深い作品と言えるでしょう。

この映画は、ゴダール監督のフィルモグラフィーの中でも重要な位置を占め、彼の映画史における大きな転換点、そして新たな表現方法の探求を示す重要な作品として、高く評価されています。ビデオ技術の活用、政治的テーマからのシフト、そして自己と他者との関係性の探求という三つの要素が複雑に絡み合い、観る者に多様な解釈と深い感動を与え続ける、まさにゴダール監督らしい作品と言えるでしょう。

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