ヒエロス・ガモス

ヒエロス・ガモス（聖婚）とは

ヒエロス・ガモス（hieros gamos）は、ギリシア語に由来する「聖なる結婚」を意味する言葉で、神婚、聖婚、聖体婚姻とも呼ばれます。これは、神話や儀礼において見られる、男女二神の交合や神と人との婚姻を象徴するモチーフです。

聖婚の起源と意味

聖婚は、世界の創造をもたらした天の神と地母神の交わりを起源とします。豊穣をもたらす男神と女神、または神と人の結婚を模倣した祭儀も聖婚の一例です。中世ヨーロッパにおいては、修道女が神の花嫁と呼ばれることもありました。

語源はギリシャ語で、"hieros"（神聖な）と "gamos"（婚姻、媾合）が組み合わさったものです。

聖婚の祭儀

聖婚は、象徴的な意味を持つ古代の儀式として、主に春に行われていました。冬は生命活動が停滞し死を象徴するため、春は再生の象徴と考えられていたからです。この儀式は、死と再生のサイクルを表現するものでした。

参加者は、儀式の対象となる神と交信し、神の属性を身に帯びることを願いました。そして、神々の結婚を通じて、自身や土地、民、都市国家に豊穣がもたらされるよう祈念しました。この儀式は、宗教の主権者や神殿娼婦によって執り行われることが多かったようです。

歴史的な例

古代シュメールの都市国家では、王と女神イナンナの女祭司との間で「神聖な結婚」が行われていました。これは、単なる象徴的な儀式ではなく、現実的な目的も兼ねていました。人々は配偶者と性交するタイミングを調整し、子供が冬に生まれるようにしていました。冬は赤ん坊の世話をする時間を確保しやすかったからです。

現代における聖婚

現代でも聖婚の儀式は行われています。例えば、ウイッカでは「グレート・ライト」と呼ばれる性行為が儀式として行われます。ベルティーン（5月1日）の夜に行われることが多く、男神を体現する男性と女神を体現する女性が性交し、恋人同士である二神の交わりと、ユール（冬至）に生まれるであろう新しい神の懐妊を祝います。

これは本質的には豊穣儀礼であり、秋に結実する種を母なる大地に蒔くことを象徴しています。

グレート・ライトは、ウイッカや新異教主義において、象徴的な意味合いで行われることが多く、儀式用の短剣を杯に突き入れることで、聖婚の神聖な結合を象徴します。この象徴的な儀式は、サバトやエスバトにおいて頻繁に行われます。

まとめ

聖婚は、古代から現代に至るまで、様々な文化や宗教において見られる普遍的なテーマです。神々の結婚を通じて、豊穣や再生、世界の創造を願う人々の想いが込められています。現代においても、聖婚は象徴的な儀式として、人々の精神的な繋がりや共同体の結束を深める役割を果たしています。

参考資料

タントラ教
異類婚姻譚
太陽感精神話

外部リンク

錬金術および現代人の無意識における聖なる結婚の元型 (Remo F. Roth, Ph.D.) （英語）
「哲学者の薔薇園」における聖婚のテーマ (Karen-Claire Voss) （英語）
デルフォイで見つかった聖婚の象牙小像
シチリア島、女神ヘーラーの神殿で見つかった聖婚の彫刻レリーフ
アテネ、女神アテーナーを祭るパルテノン神殿で見つかった聖婚の彫刻レリーフ
* ローマ時代のポンペイから見つかった聖婚を描いた壁画

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