ヒカゲノカズラ

ヒカゲノカズラ（日陰鬘）とは

ヒカゲノカズラ（学名：Lycopodium clavatum）は、ヒカゲノカズラ植物門に属する代表的な植物です。「蘿（かげ）」という別名を持ち、シダ植物でありながら、コケのような外観をしています。

特徴

山野に自生する多年草で、つる状ですが他の植物に絡みつくことはなく、地表を這って広がります。針状の細い葉が密生し、細長いブラシのような独特の姿をしています。

主茎と側枝: 主茎は細くて硬く、匍匐茎として地表を這い、二又に分枝します。所々から根を出して体を固定し、線形の葉が密生しています。側枝は短く、数回枝分かれし、葉を密につけます。
胞子: 夏頃に胞子をつけます。茎から垂直に立ち上がる枝を出し、その先端に胞子のう穂をつけます。胞子のう穂は円柱形で、胞子を抱えた鱗片状の胞子葉が密生しています。

分布

日本では沖縄を除く各地に広く分布し、国外では北半球の温帯から熱帯地域の高山まで見られます。広い分布域を持つため、変異も多く見られます。

名前の由来

「日陰の葛」という名前は、日当たりの良い場所を好むという意味とも解釈できますが、定かではありません。湿った日当たりの良い傾斜地によく生育し、林道の周辺などでよく見られます。

近似種

ヒカゲノカズラの変異種や、類似した植物がいくつか存在します。

ナンゴクヒカゲノカズラ: 葉がやや硬く、胞子のう穂の柄がより高いのが特徴です（四国、九州）。
ミズスギ: 這う姿はヒカゲノカズラに似ていますが、胞子のう穂が針葉樹のような枝ぶりの直立茎の先端に下向きにつきます（本州南岸以南）。
スギカズラ: 匍匐茎は横に這いますが、側枝はほとんど分枝せずに直立します（本州中部以北）。

利用

ヒカゲノカズラは、様々な用途で利用されてきました。

石松子（せきしょうし）: 胞子は石松子と呼ばれ、丸薬の衣やリンゴの人工授粉の際の増量剤として使われます。湿気を吸収しないため、止血剤としても利用されました。
ドライフラワー、アート素材: 乾燥させても緑色を保ちやすく、加工が容易なため、ドライフラワーやアート素材として利用されます。
金魚の産卵巣: 金魚の養殖において、産卵巣として利用されることがあります。
料理の飾り: 高級料亭で、川魚などに添えて飾りとして利用されることがあります。

文化

ヒカゲノカズラは、古くから祭事にも用いられてきました。

神話: 天岩戸の前でアメノウズメが踊った際、ヒカゲノカズラを身にまとったという説があります。『古事記』には「天香山の日影蔓を手襁に懸け」という記述があり、この日影蔓がヒカゲノカズラであると考えられています。
古典: 『万葉集』や『紫式部日記』にもヒカゲカズラに関する記述が見られます。
祭事: 伏見稲荷大社の大山祭では参拝者にヒカゲノカズラが授与され、賀茂別雷神社では卯杖にヒカゲノカズラが用いられます。率川神社では、ヒカゲカズラを頭に飾った舞姫が踊る「五節の舞」があります。
* 大嘗祭: 大嘗祭や新嘗祭でも用いられていたとされ、2019年の大嘗宮の儀では、衛士が冠にヒカゲノカズラを飾り、天皇が通る雨儀御廊下には天井からヒカゲノカズラが吊り下げられました。

ヒカゲノカズラは、その独特な姿と多様な用途で、私たちの生活や文化に深く根ざした植物です。

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