ヒゲブトグンバイ
ヒゲブトグンバイ（学名：Copium japonicum）は、カメムシ目に属するグンバイムシ科の昆虫の一種です。この虫は、シソ科の植物の蕾に寄生し、袋のような形をした虫瘤（虫えい）を作り、その中で生活するという、グンバイムシとしては極めて特異な生態を示します。
成虫の体長はおよそ4ミリメートルほどと、比較的小型の昆虫です。体色は全体的に暗褐色を基調としていますが、中にはやや淡い色合いの個体も見られます。頭部は通常黒色ですが、淡色個体では褐色になります。球形をした黒い複眼の後ろには、細長い突起が一対確認できます。この虫の最も目を引く特徴は触角です。触角は非常に太く、通常は黒色（淡色個体では基部の2節が褐色）をしており、特に第3節と第4節は長く太い上に、長い毛が密に生えているため、非常に目立ちます。前胸背の中央部は後方へ長く伸びており、その中央には前端から後端まで続く縦方向の隆起があります。この中央隆起の両脇には側隆起があり、中央隆起とほぼ平行に走りますが、前端には届きません。また、前胸背の両側の縁沿いには、細かい網目状の模様が一列に並んでいます。
前翅は概ね暗褐色を呈しており、その外縁や前縁部には翅脈によって作られる網目が1〜2列並んでいます。翅脈自体の色も濃い部分と薄い部分が混じり合っています。前縁部の内側にある亜周縁部には網目が3列並び、さらにその内側の部分は幅が広く、亜周縁部と同様の比較的細かい網目が整然と並んでいます。体の下面は黒褐色で、歩脚はそれよりもやや色が濃い傾向があります。淡色個体では、体の下面も歩脚も同様に淡褐色となります。
ヒゲブトグンバイは、シソ科の植物、例えばイヌコウジュ、シモバシラ、ニガクサ、ツルニガクサなどを宿主とします。幼虫はこれらの植物の若い蕾に寄生し、宿主植物に働きかけて袋状の虫瘤を形成させ、その中で植物組織の汁を吸って成長します。宿主植物の利用には地域的な傾向が見られ、東日本ではニガクサが多く利用されるのに対し、西日本ではシモバシラが主な宿主となる傾向があります。この虫によって作られる虫えいは、寄生する植物によってニガクサツボミフクレフシ、ニガクサノハナビラフシ、シモバシラツボミフシなどと呼ばれます。
虫瘤は、宿主植物の穂状花序に通常数個形成されます。しかし、稀に一株の花序のほとんど全ての蕾が虫瘤化し、植物全体が著しく歪んで、一見してそれと分からないほど異様な姿になることもあります。形成された虫瘤は直径がおよそ10ミリメートルほどに肥大します。
生活環は一年を通して一世代のみで、成虫の姿で冬を越します。越冬を終えた成虫は、春の訪れとともに、概ね4月頃から活動を開始します。詳しい交尾や産卵の様子はまだ十分に解明されていませんが、ヨーロッパに生息する同属の別種の観察からは、メスが宿主植物の若い蕾に対し、その外側から産卵することが報告されています。
一般的に、グンバイムシの卵はバナナのような形をしており、一方の端に蓋があります。メスはこれを植物組織（通常は葉裏）に埋め込むように産卵しますが、この際、蓋のない側を先に組織内に入れるため、孵化した幼虫は葉裏側から出てくるのが普通です。しかしヒゲブトグンバイの場合、メスは蕾の外側から、蓋のある側を先に蕾の中に産卵します。この独特な産卵方法により、孵化した幼虫は例外なく蕾の内部空間に出現することになります。
蕾の内部に入った幼虫は、宿主植物の花冠を袋状あるいは巾着状に大きく肥大させ、その中で成長します。幼虫は5回の脱皮を経て成長すると考えられています。虫瘤の開口部（本来の花弁の合わさる部分）は、内部で成長中の昆虫がまだ未熟な段階では閉じたままですが、成虫が羽化し十分に成熟すると、花弁の間に隙間が生じ、そこから外部へ脱出することが可能となります。成虫は虫えいの内部で羽化を済ませ、しばらくの間そこで過ごした後、主に7月から8月にかけて虫瘤の外へ出てきます。虫瘤から脱出した成虫は、その後自由生活を送りますが、この期間にどのような植物を摂食しているのかは、今のところ明らかになっていません。
通常、一つの虫瘤の中には一匹の幼虫だけが生息しているのが通例です。しかし、シモバシラにできた虫瘤からは複数個体が発見されたという報告例も過去に存在します。ただし、ヨーロッパの同属種では常に一匹しか見つかっていないことから、この複数個体発見の記録については更なる検証が必要とされています。
日本では本州、四国、九州、対馬に分布が確認されています。国外では、台湾、朝鮮半島、中国南部から記録があります。
ヒゲブトグンバイが属するヒゲブトグンバイ属（Copium属）は、世界全体でわずか5種のみが確認されており、日本にはこのうち本種一種類だけが生息しています。
グンバイムシ科に属する昆虫は全て植物を食べる植食性であり、その大多数は、宿主植物の葉の裏に潜み、植物の汁を吸って生活しています。そのような中で、ヒゲブトグンバイのように、宿主植物に虫瘤を形成させるという生態を持つ種は、グンバイムシ科全体では非常に珍しい存在です。
さらに、グンバイムシ科の虫瘤形成種の多くは、葉が変形して袋状になるタイプの虫瘤を作ります。一方、花が変形して袋状になるタイプの虫瘤を作る種は少なく、日本国内においてはヒゲブトグンバイが唯一知られているという点で、特に希少性が高いと言えます。
この虫は、形成された虫瘤を注意深く観察したり、開いてみたりすることで内部に生息している虫を比較的容易に見つけることができるため、その生態を知っていれば判別も比較的容易です。
形態
成虫の体長はおよそ4ミリメートルほどと、比較的小型の昆虫です。体色は全体的に暗褐色を基調としていますが、中にはやや淡い色合いの個体も見られます。頭部は通常黒色ですが、淡色個体では褐色になります。球形をした黒い複眼の後ろには、細長い突起が一対確認できます。この虫の最も目を引く特徴は触角です。触角は非常に太く、通常は黒色（淡色個体では基部の2節が褐色）をしており、特に第3節と第4節は長く太い上に、長い毛が密に生えているため、非常に目立ちます。前胸背の中央部は後方へ長く伸びており、その中央には前端から後端まで続く縦方向の隆起があります。この中央隆起の両脇には側隆起があり、中央隆起とほぼ平行に走りますが、前端には届きません。また、前胸背の両側の縁沿いには、細かい網目状の模様が一列に並んでいます。
前翅は概ね暗褐色を呈しており、その外縁や前縁部には翅脈によって作られる網目が1〜2列並んでいます。翅脈自体の色も濃い部分と薄い部分が混じり合っています。前縁部の内側にある亜周縁部には網目が3列並び、さらにその内側の部分は幅が広く、亜周縁部と同様の比較的細かい網目が整然と並んでいます。体の下面は黒褐色で、歩脚はそれよりもやや色が濃い傾向があります。淡色個体では、体の下面も歩脚も同様に淡褐色となります。
生態
ヒゲブトグンバイは、シソ科の植物、例えばイヌコウジュ、シモバシラ、ニガクサ、ツルニガクサなどを宿主とします。幼虫はこれらの植物の若い蕾に寄生し、宿主植物に働きかけて袋状の虫瘤を形成させ、その中で植物組織の汁を吸って成長します。宿主植物の利用には地域的な傾向が見られ、東日本ではニガクサが多く利用されるのに対し、西日本ではシモバシラが主な宿主となる傾向があります。この虫によって作られる虫えいは、寄生する植物によってニガクサツボミフクレフシ、ニガクサノハナビラフシ、シモバシラツボミフシなどと呼ばれます。
虫瘤は、宿主植物の穂状花序に通常数個形成されます。しかし、稀に一株の花序のほとんど全ての蕾が虫瘤化し、植物全体が著しく歪んで、一見してそれと分からないほど異様な姿になることもあります。形成された虫瘤は直径がおよそ10ミリメートルほどに肥大します。
生活環は一年を通して一世代のみで、成虫の姿で冬を越します。越冬を終えた成虫は、春の訪れとともに、概ね4月頃から活動を開始します。詳しい交尾や産卵の様子はまだ十分に解明されていませんが、ヨーロッパに生息する同属の別種の観察からは、メスが宿主植物の若い蕾に対し、その外側から産卵することが報告されています。
一般的に、グンバイムシの卵はバナナのような形をしており、一方の端に蓋があります。メスはこれを植物組織（通常は葉裏）に埋め込むように産卵しますが、この際、蓋のない側を先に組織内に入れるため、孵化した幼虫は葉裏側から出てくるのが普通です。しかしヒゲブトグンバイの場合、メスは蕾の外側から、蓋のある側を先に蕾の中に産卵します。この独特な産卵方法により、孵化した幼虫は例外なく蕾の内部空間に出現することになります。
蕾の内部に入った幼虫は、宿主植物の花冠を袋状あるいは巾着状に大きく肥大させ、その中で成長します。幼虫は5回の脱皮を経て成長すると考えられています。虫瘤の開口部（本来の花弁の合わさる部分）は、内部で成長中の昆虫がまだ未熟な段階では閉じたままですが、成虫が羽化し十分に成熟すると、花弁の間に隙間が生じ、そこから外部へ脱出することが可能となります。成虫は虫えいの内部で羽化を済ませ、しばらくの間そこで過ごした後、主に7月から8月にかけて虫瘤の外へ出てきます。虫瘤から脱出した成虫は、その後自由生活を送りますが、この期間にどのような植物を摂食しているのかは、今のところ明らかになっていません。
通常、一つの虫瘤の中には一匹の幼虫だけが生息しているのが通例です。しかし、シモバシラにできた虫瘤からは複数個体が発見されたという報告例も過去に存在します。ただし、ヨーロッパの同属種では常に一匹しか見つかっていないことから、この複数個体発見の記録については更なる検証が必要とされています。
分布
日本では本州、四国、九州、対馬に分布が確認されています。国外では、台湾、朝鮮半島、中国南部から記録があります。
分類上の位置づけと特殊性
ヒゲブトグンバイが属するヒゲブトグンバイ属（Copium属）は、世界全体でわずか5種のみが確認されており、日本にはこのうち本種一種類だけが生息しています。
グンバイムシ科に属する昆虫は全て植物を食べる植食性であり、その大多数は、宿主植物の葉の裏に潜み、植物の汁を吸って生活しています。そのような中で、ヒゲブトグンバイのように、宿主植物に虫瘤を形成させるという生態を持つ種は、グンバイムシ科全体では非常に珍しい存在です。
さらに、グンバイムシ科の虫瘤形成種の多くは、葉が変形して袋状になるタイプの虫瘤を作ります。一方、花が変形して袋状になるタイプの虫瘤を作る種は少なく、日本国内においてはヒゲブトグンバイが唯一知られているという点で、特に希少性が高いと言えます。
この虫は、形成された虫瘤を注意深く観察したり、開いてみたりすることで内部に生息している虫を比較的容易に見つけることができるため、その生態を知っていれば判別も比較的容易です。
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