ヒシ

ヒシ：水辺に咲く食用植物の知られざる魅力

ヒシ(Trapa jeholensis)は、ミソハギ科ヒシ属に属する一年草の水生植物です。池や沼などの水深約2メートルほどの場所に自生し、水面に葉を広げる浮葉植物として知られています。その独特の形状をした種子は食用となり、古くから人々の生活に深く関わってきた植物です。

ヒシの生態：水面を彩る独特の姿

春、前年に水底に沈んでいた種子から発芽が始まります。水中を長く伸びた茎はよく枝分かれし、節々から水中根を出し、水面に向かって伸び上がります。葉は互生し、茎の先端に集まって放射状に広がるため、一見輪生しているように見えます。葉は三角状の菱形で、長さ3～5センチ[[メートル]]、縁にはギザギザ（鋸歯）があります。葉柄は外側の葉ほど長く、葉が重ならないように工夫されています。葉の裏面や葉柄には、長い軟毛が生えています。また、葉柄の中央部は紡錘形に膨らんでおり、内部はスポンジ状で浮き袋の役割を果たしています。ただし、ホテイアオイのように水面から葉を持ち上げることはありません。

夏から秋（7～10月）にかけて、葉の脇から伸びた花柄が水面に顔を出します。直径約1センチ[[メートル]]の白色または淡紅色の小さな花を咲かせます。この花は一日花で、主に日中に開き、夜には閉じます。花が終わると、水中で結実し、幅約3～4センチ[[メートル]]の果実が形成されます。果実は堅く、菱形で、両端に鋭い刺（とげ）があります。このとげは萼片が発達したものです。秋に熟して黒くなった果実は水底に沈み、越冬します。なお、菱形という名称の由来は、葉か実かは諸説あり、はっきりしていません。

ヒシの分布と生育環境

ヒシは、日本全国（北海道、本州、四国、九州）のほか、朝鮮半島、中国、台湾、ロシアのウスリー川流域などに広く分布しています。平地の池、沼、湖などに群生し、水面を覆うほど繁茂することもあります。ただし、猛暑時などに異常繁殖し、問題となるケースもあります。

ヒシの近縁種

ヒシの近縁種として、オニビシとヒメビシが挙げられます。これらはいずれも果実に鋭いとげを持つことから、古くから忍者が敵の足止めとして用いた「まきびし」として知られています。オニビシの果実も食用できます。

ヒシの利用：食文化と歴史

ヒシの実は古くから食用とされてきました。採取時期は、暖地では10月頃、寒冷地では9～10月頃です。熟した黒褐色の実だけでなく、緑色の未熟な実も食べられます。「菱栗」や「沼栗」とも呼ばれ、生食のほか、塩ゆで、蒸し、天ぷら、甘煮、炒め物など、様々な料理に使われます。未熟な実は渋みが少なく、殻もむきやすいのが特徴です。縄文時代からの食文化であり、文献にもその記述が見られます。アイヌ民族もヒシの実を重要な食糧として利用していました。近年では、ヒシを使った焼酎も作られています。

ヒシの果実には、デンプン（約52％）、ブドウ糖、タンパク質、カルシウム、ビタミン類などが豊富に含まれています。薬膳では、健胃、滋養、強壮、消化促進などの作用があるとされています。

ヒシの薬効と研究

ヒシの皮の抽出物には、脂肪の吸収抑制や血圧上昇抑制効果があることが、研究によって明らかにされています。有効成分はヒシポリフェノールで、オイゲニイン、1,2,3,6-テトラ-O-ガロイル-β-D-グルコピラノース、Trapainなどが含まれています。Trapainはヒシから発見された加水分解性のタンニンです。

ヒシと文学

ヒシは万葉集にも詠まれており、古くから人々に親しまれてきた植物であることが伺えます。

まとめ

ヒシは、食用、薬用、さらには忍者の道具としてまで活用されてきた、歴史と文化が深く結びついた植物です。その生態や利用法、薬効など、多角的に理解することで、ヒシに対する新たな魅力を発見できるでしょう。

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