ヒシアゲ古墳

ヒシアゲ古墳は、奈良県奈良市佐紀町に位置する前方後円墳であり、佐紀盾列古墳群を構成する古墳の一つとして知られています。古墳の全長は219メートル、後円部の直径は124メートル、高さは16.2メートルを測り、前方部の幅は145メートル、高さは13.6メートルとなっています。その規模の大きさから、築造当時は地域の有力者の権力を示す象徴的な存在であったと考えられます。

現在、ヒシアゲ古墳は宮内庁によって管理されており、一般の立ち入りは制限されています。陵墓名は「平城坂上陵（ならさかのえのみささぎ）」とされ、第16代仁徳天皇の皇后である磐之媛命（いわのひめのみこと）の陵墓として治定されています。ただし、実際の被葬者が磐之媛命であるという確証はなく、考古学的な調査や研究によって、築造時期や被葬者に関する様々な議論がなされています。

古墳の築造時期は、5世紀中葉から後半にかけてと推定されています。これは、古墳から出土した埴輪や土器などの遺物の特徴、古墳の形状や構造などを総合的に判断した結果に基づいています。当時の政治・社会情勢を考慮すると、この時期に大和政権の勢力が拡大し、各地の豪族がその支配下に入ったと考えられ、ヒシアゲ古墳もそうした状況下で築造された可能性があります。

ヒシアゲ古墳の構造的な特徴としては、前方部に二重の濠が設けられている点が挙げられます。これは、他の古墳ではあまり見られない珍しい構造であり、防御的な意味合いや、古墳の権威を示すための意匠であったと考えられます。また、1993年に奈良県立橿原考古学研究所が行った調査では、後円部東側のくびれ部にあたる内堤の外法肩部分で円筒埴輪列が発見されました。これらの埴輪は、古墳の祭祀や儀礼に使用されたものと考えられ、当時の文化や信仰を知る上で貴重な資料となっています。

現在、ヒシアゲ古墳は奈良県の風致保全整備事業の一環として公園として整備されており、一部では遺構の復元が行われ、複製された埴輪が設置されています。また、外濠を横断する渡土堤の存在も確認されており、当時の古墳の景観を偲ぶことができます。ヒシアゲ古墳は、古代の歴史や文化に触れることができる貴重な史跡として、多くの人々に親しまれています。

なお、宮内庁によって仁徳天皇陵として治定されている大仙古墳（百舌鳥耳原中陵）も、大阪府堺市に所在する巨大な前方後円墳であり、ヒシアゲ古墳と同様に、当時の権力者の墓であると考えられています。

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