ヒポクラテスの誓い (小説)

ヒポクラテスの誓い

『ヒポクラテスの誓い』は、著者・中山七里による推理小説で、2014年から翌年にかけて連載され、2015年には単行本として発表されました。また、2016年には文庫版が出版され、著名な法医学の専門家による監修が加えられています。この作品は日本医療小説大賞の最終候補にも選ばれています。

物語の舞台は浦和医大。主人公の栂野真琴は、内科の津久場教授の助言を受け、法医学教室へ入ることを決意します。ここで彼女は法医学の権威である光崎藤次郎教授と出会い、実際の解剖を通して死の真実を解き明かしていくことになります。光崎教授は、これまで著者の他の作品にも登場してきた経験豊富な解剖医であり、彼との衝突や協力を通じて真琴は成長していくのです。

物語は主に五つの章に分かれており、それぞれが異なる事件を扱っています。最初の章では、栂野真琴が法医学教室に入るきっかけとなる遺体解剖の事件が描かれます。埼玉県皇山町の河川敷で発見された遺体は、当初は凍死と思われましたが、そこには謎が隠れていたことが徐々に明らかになります。教授とともに現場に出向いた真琴は、遺体に関連する様々な要因を分析し、解剖を通じて真実に迫ります。

次の章では、9歳の少女篠田凪沙が「事故で死んだ人を解剖してほしい」と法医学教室に連絡を入れることから物語が展開します。彼女は父親の運転する車により女性が亡くなったと語りますが、家族はその事実を受け入れられずにいました。真琴はキャシー准教授と共に、事故の真相を探るため大宮東署を訪れます。このように、作品は様々な事件を描きながら、登場人物たちの成長や人間関係が交錯していきます。

また、第三章ではボートレース中に起こった事故の真相に迫ります。選手が死亡する事件は法医学的に検証され、埼玉県警の古手川刑事が再度関与し、調査が進められます。この事件は、法医学者としての真琴の成長を強調しつつ、真実を追求する姿勢が際立つ場面となっています。

第四章では、親友の柏木裕子が入院する重病の経過が描かれ、彼女の死が引き起こす感情的な衝突が明らかになります。真琴は裕子の家族を説得し、解剖を実施して真実を探ります。このように、医療における倫理や家族の感情が複雑に絡み合った深いテーマが扱われています。

最後の章では、再び真琴の周辺で発生する事件に焦点が当てられ、解剖の必要性が問われます。病院内での陰謀や医療ミスの疑惑が浮かび上がり、それぞれの登場人物が抱える葛藤や選択が描かれています。物語のクライマックスでは、解剖を通じて見えてくる真実が、大きな感動を呼び起こします。

本書は、医療界のリアルな描写や法医学の重要性を訴えるとともに、人間の心理や倫理に対する深い考察がなされており、読者に強いメッセージを伝えます。書評家からも「痛快でエンターテインメント性が高い」と評され、多くの人々に感銘を与えています。医療小説を通じて、真実を追求する姿勢や人間ドラマが鮮明に描かれたこの作品は、一度読んでみる価値があるでしょう。

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