ヒメスゲ

ヒメスゲ

ヒメスゲ（Carex oxyandra Kudo）は、カヤツリグサ科スゲ属に分類される小型の多年草です。主に温帯域の山地草原などに生育し、ひっそりとその姿を見せています。

特徴

草丈は最大でも30cm程度で、株が密集して塊を形成します。細い匍匐枝を伸ばして繁殖するのも特徴です。花茎は葉よりも高く伸び、その先端に小穂を密集させます。

小穂: 雄小穂は線形で、雌小穂は短い棒状または楕円形です。どちらも柄がなく、雌小穂はやや間隔を置いてつくこともあります。
鱗片: 雄花、雌花ともに、鱗片は黒っぽい紫色に色づき、光沢があります。
基部: 株の基部が鮮やかな血赤色を帯びるのが最大の特徴です。果胞は成熟すると白っぽくなります。
果胞: 果胞の嘴が特に長い変種として、ナガミヒメスゲ C. oxyandra var. lanceata (Kuek.) Ohwi が知られています。

果実が熟すと穂は垂れ下がり、その様子はスズメノヤリに似ています。

生育環境

ヒメスゲは北海道から九州まで広く分布していますが、主にブナ帯以上の地域に生育します。中部地方以北では、山地から高山にかけてごく普通に見られ、林縁や草地など、比較的日当たりの良い場所に生息します。しかし、それより南の地域では、山地の高所に点々と分布するのみです。

高地では、ヘビノネゴザなどと共に尾根筋の開けた岩場で見かけることが多く、高山植物のような趣があります。強い根茎を地中に張り巡らせて群落を形成する傾向があり、同じような環境では、ショウジョウスゲ、コタヌキラン、ホソバヒカゲスゲ、ニイタカスゲなどが競合相手となります。

標高の低い地域では、基部が血赤色を帯びることがあるヒナスゲと混生することもありますが、ヒナスゲは草丈が低く、小穂が単独で生じる点、冬季に葉がウシノケグサのように針状になる点で区別できます。

ヒメスゲが生育する日当たりの良い高地では、フキバッタ類のヒロバネヒナバッタや近縁の高山種、ヒシバッタなどが見られます。また、ショウジョウスゲと共に比較的標高の低い地域でも見られ、その生息幅の広さが特徴です。枯死部は雪の下で小型生物にとって快適な環境を提供していると考えられます。

近縁種

ヒメスゲにはいくつかの近縁種が存在し、いずれも小型で、長く伸びた花茎の先に果胞がまとまってつく点、雌雄花の鱗片が黒っぽい点が共通しています。

クロヒナスゲ (C. gifuensis Franch.): 本州と四国の一部の地域にのみ分布します。山地の林内に生育し、匍匐枝を伸ばして一面に広がります。果胞には明瞭な脈が見られます。
タカネヒメスゲ (C. melanocarpa Cham. ex Trantv.)、トナカイスゲ (C. globularis L.): 国内では北海道の一部にしか見られず、シベリア方面に分布します。
ヌイオスゲ (C. panheurckii Muell. Arg.): 北海道と本州中部以北の高山に分布し、雄小穂が長いことで区別できます。
サワヒメスゲ (C. mira Kuek.): 本州中部以西の低山に分布し、上流域の河川沿いの岩の上に生育します。果胞はやや扁平で嘴が長いのが特徴です。

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