カヤツリグサ科

カヤツリグサ科とは

カヤツリグサ科は、単子葉植物に属する科の一つで、世界中に約70属3700種が分布しています。APG植物分類体系ではイネ目に分類されています。細長い葉を持つ草本が多く、花は花びらを持たず、鱗片が重なり合って小穂を形成するのが特徴です。

カヤツリグサ科の植物の一般的な特徴

ほとんどの種は一年生または多年生の草本で、短い茎が地表や地中にあります。一部の種は匍匐枝を出し、木質化した茎を持つものも存在します。地上には花をつける花茎（稈）を長く伸ばし、葉は地面の茎や稈の節ごとに生えます。葉の基部は茎を抱き、両側が癒合して鞘を形成します。種によっては葉身が退化し、鞘のみが残る場合や、植物体全体に葉身がなく、花茎の緑色部分のみで光合成を行うものもあります。

小穂について

カヤツリグサ科の花は小さく、多数が集まって鱗片に覆われた小穂を形成します。小穂は花茎に単生するか、多数が集まって花序をなします。花序の基部には苞があり、これが発達すると傘のような姿になります。苞葉が茎の延長のように見える場合もあり、茎の途中に花序が横向きに出ているように見えることもあります。小穂には多数の花を含むものが多いですが、ごく少数の花や、1つだけの有効な花を持つものもあります。花が螺旋状に並ぶと小穂は円柱状や楕円形、球形になり、松笠のような外見になります。花が左右1列に並ぶと、小穂は扁平になり、鱗片が2列に並ぶ瓦列性となります。

花の特徴

個々の花では、花被（花弁や萼）の退化が著しいです。ワタスゲ属では花被片が糸状で花後に長く伸びて綿毛状になりますが、これは稀な例です。多くの種では花被片が鱗皮状や刺針状で、鱗片に覆われて外からは見えません。カヤツリグサ属やテンツキ属では花被片が完全に消失します。雄しべは通常3本ですが、これはもともと6本あったものが1列だけ残ったと考えられています。カヤツリグサ属やホタルイ属では、1つの花に雄しべと雌しべを備えるものが多いですが、一部の花が単性花となっている場合もあります。スゲ属やシンジュガヤ属では、雄花と雌花が完全に分かれており、小穂も別になっています。カヤツリグサ科は、実は2つの系統が含まれているのではないかという説もあります。

小穂は内部の軸に沿って花が並び、鱗片が覆っています。1つの花には、通常、中央に雌しべ、その外側に3対の雄しべ、さらに外側に花被由来の付属物があり、これらを1枚の鱗片が覆うのが一般的です。

生育環境

カヤツリグサ科の植物は、さまざまな環境に生育しますが、特に湿地性の種が多いです。水中生活をするものもいますが、完全に沈水性の水草になるものは少なく、多くは水中から茎を突き出して生活します。

イネ科との比較

カヤツリグサ科はイネ科と多くの点で似ていますが、いくつかの点で区別できます。

茎の断面が三角形のものが多く、葉の配列も三角形になることが多い（三数性）。イネ科は二数性です。
茎の断面を見ると、中がつまっている場合が多いです。イネ科では中が空洞のものが多いです。
葉の根元に、茎を巻いて両側が癒合した鞘を持つものが多いです。イネ科では茎を巻いても鞘にならない場合が多いです。
果実が鱗片から外れて落ちるものが多いです。イネ科ではほとんどが鱗片に包まれて落ちます。

両科は風媒花として進化したため、花が地味であることや小穂を形成することなど、共通点が多いです。そのため、見た目の特徴に乏しく、同定が難しいとされています。特にスゲ属は同定が困難で専門家でも敬遠するほどです。

イネ科は小穂の構造が多様で属数が多いですが、各属に含まれる種数はそれほど多くありません。一方、カヤツリグサ科は小穂の構造はそれほど多くなく、属数が少ないにもかかわらず、各属に含まれる種数が非常に多いです。また、イネ科には穀物や食用とされる種が多いですが、カヤツリグサ科は食用とされるものが少ない傾向にあります。帰化種の数にも大きな差が見られます。

人間とのかかわり

カヤツリグサ科は種多様性が高い割には、利用価値のあるものが少ないとされていますが、パピルスの原料となるカミガヤツリや、ござや筵の材料となるアンペラ、シチトウイなど、利用価値の高い種も存在します。また、葦船の材料として使われるトトラもカヤツリグサ科の一種です。食用としては、オオクログワイの塊茎が中華料理の食材として知られています。観賞用に栽培される種も少数ながらあります。一方で、雑草として扱われる種も存在します。

分類

カヤツリグサ科の主要な属は、スゲ亜科、カヤツリグサ亜科に分けられます。スゲ亜科にはスゲ属、ヒゲハリスゲ属、ウンキニア属などが含まれ、カヤツリグサ亜科にはカヤツリグサ属、スゲガヤ属、イヌノハナヒゲ属、ホタルイ属、テンツキ属などが含まれます。分子系統による見直しも進んでおり、分類体系は変更される可能性があります。

日本産の主な属と種

以下に日本産の主な属と代表的な種を挙げます。

オオサンカクイ属 - オオサンカクイ
ウキヤガラ属 - ウキヤガラ
ハタガヤ属 - ハタガヤ、イトハナビテンツキ
スゲ属 - カンスゲ、カサスゲ、コウボウムギ
ヒトモトススキ属 - ヒトモトススキ
カヤツリグサ属 - カヤツリグサ、カワラスガナ、イガガヤツリ、ハマスゲ
カガシラ属 - カガシラ
ハリイ属 - ハリイ、シカクイ、マツバイ、クログワイ
ワタスゲ属 - ワタスゲ、サギスゲ
テンツキ属 - テンツキ、ヒデリコ、ヤマイ
クロタマガヤツリ属 - クロタマガヤツリ
クロガヤ属 - クロガヤ
ビャッコイ属 - ビャッコイ
ヒゲハリスゲ属 - ヒゲハリスゲ
アンペラ属 - アンペラ
ヒンジガヤツリ属 - ヒンジガヤツリ
ネビキグサ属 - ネビキグサ
ミカヅキグサ属 - ミカヅキグサ、イヌノハナヒゲ、イガクサ
ホソガタホタルイ属 - カンガレイ、ホタルイ、ヒメホタルイ
フトイ属 - フトイ、サンカクイ、シズイ
ノグサ属 - ノグサ、オオヒゲクサ
アブラガヤ属 - タカネクロスゲ、アブラガヤ、マツカサススキ
シンジュガヤ属 - シンジュガヤ、コシンジュガヤ
ヒメワタスゲ属 - ミネハリイ、ヒメワタスゲ

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