ヒメノキシノブ

ヒメノキシノブ（Lepisorus onoei）について

ヒメノキシノブは、ウラボシ科に分類される常緑性のシダ植物です。ノキシノブに似た姿をしていますが、全体的に小型で、葉の先端がそれほど尖らない点が特徴です。着生植物として、岩の上や樹木の幹に根を張って生育します。

特徴

根茎: 細く、直径1～1.5mm程度で、地表を長く這うように伸びます。表面は暗褐色の鱗片で覆われており、この鱗片は膜質で格子状の模様を持ちます。鱗片の大きさは2.5～3mmで、先端が尖り、基部は円形または心形をしています。縁には不規則な鋸歯があります。
葉: 葉は根茎から間隔を空けて生え、葉柄は短いです。葉身は長さ3～10cm、幅2～5mmで、線状の形をしています。葉幅が最も広いのは先端に近い部分で、先端は鈍く尖ります。葉は革のような質感で、葉脈は見えにくく、毛はありません。
胞子嚢群: 葉の裏側、中肋と縁の中間の位置に数個が並んで形成されます。

分布と生育環境

ヒメノキシノブは、日本国内では北海道の渡島半島から本州、四国、九州、そして琉球列島の徳之島以北にかけて分布しています。国外では、朝鮮半島にも分布が確認されています。分布の南限にあたる奄美群島の個体は、葉の質感がやや薄いなど、形態に若干の違いが見られます。

山地のやや明るい林内で、岩の上や樹幹に着生して生育します。

分類と類似種

ヒメノキシノブが属するノキシノブ属には、世界で約810種、日本では13種が知られています。これらの種は、いずれも葉が線状で、葉の裏側に丸い胞子嚢群が一列に並ぶという共通の特徴を持っています。

最も一般的に見られるノキシノブは、葉の長さと幅がヒメノキシノブよりも大きく、葉の先端が尖っているため区別が容易です。また、ノキシノブは匍匐茎があまり横に伸びないため、葉が束になって生えているように見える点も異なります。ただし、ノキシノブは環境によって変異が大きく、矮小な姿で現れることもありますが、その場合でも根茎の太さ（直径2～3mm、ヒメノキシノブでは1mm程度）が判断のポイントとなります。

系統解析の結果、ヒメノキシノブと特に近縁とされているのが、ハチジョウウラボシ（L. hachijoensis）です。ハチジョウウラボシは、根茎がより太く（1.3～2mm、時には3mm近く）、葉の質感がより厚手であるという点で異なります。ハチジョウウラボシは伊豆諸島の固有種であり、ヒメノキシノブとの境界についてはさらなる検討が必要です。

伊豆諸島から小笠原諸島にかけて固有のホソバクリハラン（L. boninensis）は、葉身が20～30cmにもなり、葉幅の狭いクリハランといった印象で、ヒメノキシノブとは形態的な共通点が少ないです。しかし、分子系統解析では、ヒメノキシノブとハチジョウウラボシに極めて近い関係にあるとされています。

また、アシガラノキシノブは、神奈川県足柄地方で発見されたもので、ヒメノキシノブとノキシノブの雑種と考えられています。本州と九州で報告されており、国外からは知られていません。

保護の状況

環境省のレッドデータブックには指定されていませんが、都道府県別では、秋田県、山形県、香川県で絶滅危惧I類、千葉県、石川県、島根県で絶滅危惧II類、北海道、岩手県、鹿児島県で準絶滅危惧種に指定されています。福井県でも指定があります。

参考文献

岩槻邦男 編『日本の野生植物 シダ』平凡社、1992年
海老原淳『日本産シダ植物標準図鑑 II』株式会社学研プラス、2017年
池畑怜伸『写真でわかるシダ図鑑』トンボ出版、2006年
* 光田重幸『検索入門 しだの図鑑』保育社、1986年

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