ヒューマン・ボイス

ヒューマン・ボイス：失恋の痛みと怒りを描く衝撃の短編映画

ペドロ・アルモドバル監督による短編映画『ヒューマン・ボイス』（原題：La voz humana）は、2020年に公開された、ジャン・コクトーの戯曲『人間の声』を映画化した作品です。アルモドバル監督にとって初の全編英語作品であり、主演を務めたのはティルダ・スウィントン。彼女のほぼ独演による、濃密な心理描写が光る秀作として高い評価を得ています。

映画は、撮影所のセットで暮らす女性の姿から始まります。彼女は恋人との別れを経験しており、彼の残した荷物や犬と向き合いながら、心の葛藤を露わにします。直接的な別れを告げられず、彼女の心は怒りや悲しみに満ち溢れています。

彼女は金物店で斧を買い、恋人のスーツを次々と打ちつけるという衝動的な行動に出ます。しかし、それは彼女が抱える心の傷を象徴する行為であり、見る者の心を深く揺さぶります。

その後、彼女は恋人との電話で、堰を切ったように3日間の思いを語り出します。電話越しには恋人の声は聞こえず、女性の悲痛な叫びだけが響き渡ります。電話を切った後、彼女は部屋にガソリンをまいて放火し、過去を消し去ろうとします。

しかし、彼女のそばには恋人の犬が寄り添っています。彼女は犬を新しい家族として迎え入れ、撮影所から街へと出ていくのです。このラストシーンは、破壊と再生、そして新たな始まりを暗示しています。

アルモドバル監督は本作について、「主人公は奈落の底に突き落とされますが、この作品は欲望についての道徳的な教訓となります。人生や恋愛における冒険は、必然的にリスクを伴います」と語っています。女性の激しい感情の揺れ動き、そして最後に残されたのは、孤独と絶望です。

本作は、2020年のヴェネツィア国際映画祭でワールドプレミア上映され、その後、ニューヨーク映画祭やロンドン映画祭でも上映されました。スペインでは短編映画としては最高の興行収入を記録するなど、商業的にも成功を収めました。

批評家の評価も高く、Rotten Tomatoesでは97%の高い支持率を獲得しています。Metacriticでも高い評価を得ており、その完成度の高さが伺えます。ガーディアン紙のピーター・ブラッドショーは、「孤立、後悔、不安の中で、焼身自殺という絶望的な狂言に陥る人間の物語」と評しています。

ティルダ・スウィントンの圧倒的な演技、そしてアルモドバル監督の繊細な演出が光る『ヒューマン・ボイス』。短い上映時間ながら、深く心に刻まれる、忘れ難い作品です。一見の価値ありです。

制作について

アルモドバル監督は、長年『人間の声』の映像化を温めてきました。スペイン語で書いた脚本を英語に翻訳し、ティルダ・スウィントンに主演オファー。2020年2月に彼女の出演が発表されました。新型コロナウイルスの流行により撮影が延期されたものの、2020年7月に撮影が完了しています。

公開と評価

2020年9月3日のヴェネツィア国際映画祭でのワールドプレミアを皮切りに、世界各地の映画祭で上映されました。高い評価を受け、Rotten Tomatoesでは批評家から97%の支持を得ており、Metacriticでも高いスコアを獲得しています。多くの批評家は、スウィントンの演技とアルモドバル監督の演出の融合を称賛しています。

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