ヒュー・B・ケイヴ

ヒュー・バーネット・ケイヴ：多彩な才能でパルプ雑誌を彩った作家

ヒュー・バーネット・ケイヴ（1910年7月11日 - 2004年6月27日）は、アメリカ合衆国の多才な作家であり、特にホラー、奇妙な脅威、SFといったジャンルでその名を知られています。1920年代から30年代にかけてのパルプ雑誌全盛期において、彼は最も多作な寄稿者の一人として活躍しました。

多岐にわたる執筆活動

ケイヴは、ホラー、SFの他にも、西部劇、ファンタジー、冒険、犯罪、ロマンス、ノンフィクションなど、幅広いジャンルで物語を執筆し、その数は推定800にも及びます。彼は多くのペンネームを使い分け、中でもジャスティン・ケース名義で生み出したアンチヒーロー、怪盗イール（Eel、ウナギ）は人気を博しました。

第二次世界大戦中は戦争記者として戦地を駆け巡り、その経験は彼の作品に深みを与えました。戦後はジャマイカに移住し、コーヒー農園を所有・経営しながら、執筆活動を継続しました。

再評価と晩年

1970年代に入ると、カール・エドワード・ワグナーのカルコサ・プレスがケイヴの初期パルプ作品を選集『Murgunstrumm and Others』として出版し、彼の作品は再び注目を集めました。その後、フロリダ州に移住し、2000年頃まで精力的にオリジナル作品を発表し続け、1999年には生涯の功績を称えられ、ワールドファンタジー賞を受賞しました。

生い立ちと初期のキャリア

イギリスのチェスターで生まれたケイヴは、第一次世界大戦の勃発直後に家族と共にアメリカ・マサチューセッツ州ボストンに移住しました。彼のファーストネームは、母親が敬愛する作家、ヒュー・ウォルポールにちなんで名付けられました。ブルックライン高校を卒業後、ボストン大学に進学しますが、父親の負傷により退学を余儀なくされます。その後、自費出版の出版社で働きますが、20歳で作家として独立するため退職しました。

パルプ作家仲間のカール・リチャード・ジャコビとは、1932年からジャコビが亡くなる1997年まで、長年にわたり手紙のやり取りを続けました。その一部は、ケイヴの回顧録『I Remember Magazines I Remember』で読むことができます。1930年代には、ロードアイランド州ポータケットに住んでいましたが、近隣のプロビデンスに住んでいたH・P・ラヴクラフトに会うことはありませんでした。しかし、二人はパルプ雑誌への寄稿の倫理と美学について議論を交わしたとされています。

戦争記者、そしてコーヒー農園主へ

第二次世界大戦中は、記者として太平洋地域や東南アジアを旅しました。戦後はカリブ海地域に移り、ハイチで5年間を過ごした後、ジャマイカでコーヒー農園を経営し成功を収めました。しかし、後に農園はジャマイカ政府に接収され、ケイヴは1970年代初頭にアメリカへ帰国しました。2度の結婚を経験し、最初の妻との間に2人の子供をもうけました。2004年6月27日、フロリダ州ベロビーチにて93歳で生涯を閉じました。

多彩な執筆スタイル

ケイヴが最初に物語を売った時期については諸説ありますが、高校在学中に書いた「I Name Thee, Cave」とする説と、19歳で自費出版の出版社で働いていた時に書いた「Island Ordeal」とする説があります。初期には、『アスタウンディング』、『ブラック・マスク』、『ウィアード・テイルズ』といったパルプ雑誌に寄稿しました。彼自身の推定では、1930年代だけで、ジェームズ・ピットやマーガレット・ハリンウォールなど様々な変名を使って、約100の定期刊行物に約800の短編を発表したと言います。

ステファン・ジミアノヴィッチは、『セント・ジェームズ・ガイド・トゥ・ホラー、ゴースト、ゴシック様式の作家』の中で、ケイヴの作風を「アメリカの田舎町をゴシック様式の風景に変え、地元の権力ブローカーを誇大妄想的な悪魔に変えた」と評しました。1930年代後半から40年代初頭にかけては、ジャスティン・ケース名義で怪盗イールのシリーズを執筆しました。

ブードゥー教との出会い

戦後のハイチ滞在中にはブードゥー教に触れ、ノンフィクション作品『ハイチ：冒険へのハイロード』を出版し、「英語でのブードゥー教に関する最高のレポート」として高い評価を得ました。カリブ海での経験は、ベストセラーとなったブードゥー教をテーマにした小説『ドラムの十字架』（1959年）にも活かされました。

「滑らかな」雑誌への進出

中期には、『コリアーズ』、『ファミリーサークル』、『レディースホームジャーナル』、『レッドブック』、『サタデーイブニングポスト』といった大衆向け雑誌にも執筆しました。1959年には、彼の人気短編小説「ミッション」が『サタデーイブニングポスト』に掲載され、その後、ハードカバー化され、教科書に再録され、多くの言語に翻訳されました。

再評価、そして晩年

パルプ雑誌の衰退とともに、ケイヴの作品数は減少しましたが、カール・エドワード・ワグナーによって再評価され、ケイヴのホラー作品選集『Murgunstrumm and Others』は、1978年の世界幻想文学大賞特別賞を受賞しました。1970年代後半から1980年代初頭にかけては、『死者の軍団』、『ネブロンホラー』、『悪』、『悪の色合い』といったファンタジー小説を出版し、成功を収めました。晩年には、『ルシファーの目』（1991年）や『狂気の山々』（2004年）といった作品も発表しました。ケイヴはインターネットにも適応し、自身の作品の電子書籍版をオンラインで販売しました。

ケイヴは、そのキャリアを通じて、ほぼ全てのジャンルで1000以上の短編小説を執筆しました。彼はフェニックス賞だけでなく、国際ホラーギルド、ホラー作家協会、世界ファンタジーコンベンションから生涯功績賞を受賞し、その功績は高く評価されています。

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