カルコサ

カルコサ：クトゥルフ神話に彩られた架空都市の軌跡

アンブローズ・ビアスの1886年発表の短編小説『カルコサの住人』に登場する架空の都市、カルコサ。この古代にして神秘的な都市は、小説においては断片的にしか描写されておらず、かつてそこに住んでいた者の断片的な記憶を通してその存在が示唆されるに留まっています。しかし、この作品に登場した「カルコサ」という名は、後の作家たちに大きな影響を与え、クトゥルフ神話という広大な世界観において重要な位置を占めることとなります。

ロバート・W・チェンバースと『黄衣の王』

1895年、アメリカの作家ロバート・W・チェンバースは、ビアスの作品にインスピレーションを受け、『黄衣の王』という短編小説集を発表します。この作品において、カルコサはより具体的に、神秘的で古く、恐らく呪われた場所として描かれます。チェンバースはビアスの作品から着想を得て、ハリやハスターといった固有名詞も作品に取り込んでいます。作品内、そして作品中に登場する架空の書籍『黄衣の王』において、カルコサはハリ湖のほとりにあるとされ、その湖は別の惑星あるいは異次元空間にあると示唆されています。

カルコサを取り巻く関連名称と神話

カルコサに関連する名称としては、霧に閉ざされた湖「ハリ湖」が挙げられます。『黄衣の王』では、ハリ湖のほとりにはアラールという神秘的な都市も存在するとされています。さらに、ハスター、イーティル、アルデバランといった名前も意味深に暗示され、特にアルデバランはヒアデス星団との関連性が示唆されています。「黄の印」というシンボルもカルコサと関連付けられています。これらの名称は、後にハワード・フィリップス・ラヴクラフトによって始められたクトゥルフ神話の物語群にも登場し、その世界観を豊かに彩ることとなります。

ハリという名前は、ビアスの『カルコサの住人』にも登場する人物の名前から取られたものであり、チェンバースはそれを地名として再利用した点も興味深いです。

カルコサの影響と多様な解釈

カルコサという名称は、クトゥルフ神話作家たちによって繰り返し用いられ、様々な解釈が加えられてきました。カール・エドワード・ワグナー、ジョゼフ・S・パルヴァー、リン・カーター、ジェームズ・ブリッシュ、そして多くの現代の作家たちが、それぞれの作品の中でカルコサを独自の視点で描いています。ジョゼフ・S・パルヴァーに至っては、カルコサと黄衣の王に関連する30近い小説や詩を発表し、アンソロジーも編纂しています。

カルコサは、単なる架空都市にとどまらず、作家たちの想像力を刺激し続ける、いわば神話的な存在となっています。例えば、ポール・エドウィン・ジマーの『ダーク・ボーダー』シリーズでは、カルコサは人間とほぼ不滅の存在であるハスターが混ざり合った都市として描かれ、ロバート・シェイとロバート・アントン・ウィルソンの『イルミナティ三部作』では、イルミナティが地球に到達した際の古代文明の遺跡として登場するなど、多様な解釈がなされています。

また、ジョージ・R・R・マーティンの『氷と炎の歌』の世界地図にもカルコサという名前の都市が登場するなど、その影響は多岐に渡ります。他にも、アラン・ウィリアムズによるアルバータ州の草原の町としての解釈や、ジョン・シャーリーの風刺小説における奇妙な惑星の名称としての解釈、スウェーデンの作家によるストックホルムを拠点とするカルト集団の名称としての解釈など、カルコサは様々な文脈で用いられ、その解釈は多様性を増していきます。

さらに、HBOのドラマシリーズ「True Detective」では、ルイジアナ州の殺人カルト寺院として、Netflixの「サブリナの冷たい冒険」にも登場するなど、現代の映像作品にもその名が用いられています。

カルコサを冠した出版社

カルコサの名は、出版社名にも使用されています。1947年設立のSF専門出版社カルコサハウス、そして1973年設立のパルプホラー専門出版社カルコサ社です。カルコサハウスはSF小説の出版に貢献し、カルコサ社はパルプホラーの選集を出版し、1976年には世界幻想文学大賞特別賞を受賞しています。

実在のカルコサ

マレーシアにも、かつて「カルコサ邸宅」と呼ばれる建物が存在しました。これは、1896年から1897年にかけて建てられた総督公邸で、『黄衣の王』からその名を取ったとされています。その後、高級ホテルとして利用された後、現在は放棄された状態となっています。

このように、カルコサは文学作品の中だけでなく、出版社名、実在の建物名など、様々な形で現代にまでその名を留め、その神秘的な魅力を放ち続けていると言えるでしょう。その起源となるビアスの作品から、現代の小説、ドラマ、そして実在の建物まで、カルコサは多くの人の想像力と創造性を刺激し続ける、不滅の架空都市なのです。

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