ヒラキ (芸能)

ヒラキ：江戸から明治にかけての大道芸の形態

ヒラキは、江戸時代から明治20年代にかけて受け継がれた大道芸の仮設小屋であり、現代の屋台に似た形式でした。これを用いた興行形態は、寄席の前形態として、各種演芸の歴史において重要な役割を果たしています。特に大都市の神社仏閣境内や盛り場での興行が盛んでした。

ヒラキの特徴と演者の活動

江戸時代の演者たちは、神社や火除け地などの公共の場に演台を設け、そこで口演を行っていました。このような興行のスタイルは早期の講談において非常に一般的でした。例えば、深井志道軒などの演者は、以下のように野天または仮設のよしず張りの小屋で演じていました。

料金徴収の仕方も特徴的で、観客は気に入った演目にだけ投げ銭を行う形式が一般的でした。このため、演目によっては無料で観ることも可能でした。ヒラキでの興行は一般的には、茶屋などの店舗と同様の形式で運営され、商業と芸能は「見世」として区別されていなかったのです。

専門の寄席とヒラキの関係

その後、常設の専門小屋である寄席の登場によって、ヒラキの形態は一段階低いものと見なされるようになりました。落語も、もともとは辻咄としてヒラキで演じられていた歴史がありました。米沢彦八が江戸に出る前の段階では、多くのヒラキで興行が行われていたことが推測されています。

幕末から明治初期のヒラキ

幕末から明治初期にかけて、東京では様々な形態の大道芸がヒラキによって行われていました。乞胸による大道講釈や、ちょんがれ、浪花節などの演目は、盛り場で大いに賑わいを見せました。特に神田や銀座、両国、浅草などのヒラキでは、多くの観客を集めました。これらの大道芸は、警察による観物場取締規則の施行により、徐々に集約されていくことになります。この規則は、民権派の反政府的な講釈を取り締まるための主要な目的として位置付けられていました。

地域によるヒラキの多様性

ヒラキの存在は東京に限らず、他の地域にも広がっていました。例えば、横浜本牧で青木勝之助がヒラキで成功を収めた話は有名です。また、船橋では寄席とのトラブルを経てヒラキで活動する演者たちの姿も見受けられるようになりました。

関西におけるヒラキの発展

関西でも幕末に寺社境内で行われた浮かれ節がヒラキ形態で催されました。この形式では、料金の支払いは自由でしたが、他人にわかるように幟を掲げて行われました。こうした様式も、ヒラキと類似した形態を持っていると言えます。

ヒラキの建築様式

ヒラキの建築様式にはいくつかのバリエーションがあります。例えば、「よしず張り」形式のヒラキは、演者の周囲に簡素な構造が設けられることが多く、特に野天での公演に特化していました。一方で、「組建床店」や「箱店」と呼ばれる形式は、より堅牢で整然とした作りでした。箱店は特に、客席を内部に設けたり、土間を利用したりする点で、寄席に似た構造を持っていました。これにより、ヒラキの形態は時代や地域に応じて柔軟に変化してきたのです。

このように、ヒラキは江戸から明治にかけての大道芸における重要な要素であり、現代の演芸文化にも影響を与える基盤となりました。

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