ヒルマン・アヴェンジャー

ヒルマン・アヴェンジャー：英国が生んだ小型車の進化と変遷

ヒルマン・アヴェンジャーは、クライスラーがルーツ・グループを買収後、1970年に発表した小型乗用車です。後輪駆動方式を採用し、1.25Lまたは1.5Lの直列4気筒OHVエンジンを搭載。特徴的なコークボトルラインのセミ・ファストバックスタイルは、当時のアメリカ車の流行を反映していました。

発売当初は、優れた操縦性と走行性能から高い評価を獲得。同時期に登場したライバル車よりも優れていると評されました。プラスチック製フロントグリルを採用した英国車としても注目を集めました。生産は、当初はイングランドのライトン工場で行われましたが、後にスコットランドのリンウッド工場に移管されました。

グレード体系は、シンプルなDLから上級グレードのGLまで幅広く展開。GLは、丸型4灯ヘッドライト、2速ワイパー、リクライニングシートなど、上級装備を備えていました。また、高性能モデルとしてアヴェンジャー・タイガーも登場。専用チューニングを施したエンジンと強化サスペンションにより、優れたパフォーマンスを実現しました。

販売は堅調で、クライスラーはアヴェンジャーを世界戦略車として、アメリカ市場にもプリムス・クリケットとして輸出を試みました。しかし、錆や故障の多さ、そして小型車需要の低迷などが重なり、2年で撤退を余儀なくされました。

1970年代半ばにはマイナーチェンジを実施。フロントフェイスのデザイン変更や、ダッシュボード、テールランプなどの刷新が行われ、クライスラー・アヴェンジャーと名称変更されました。しかし、フォルクスワーゲン・ゴルフやルノー14などの台頭に押され、販売面で苦戦するようになりました。

1978年、クライスラーの欧州部門がPSAグループ傘下となると、アヴェンジャーはタルボット・アヴェンジャーと改名。しかし、エンブレムはクライスラーのまま販売されました。1981年、リンウッド工場閉鎖に伴い生産終了となりました。

アヴェンジャーは、英国のみならず、ヨーロッパ各国、アメリカ、南アフリカ、ニュージーランド、デンマーク、アルゼンチン、ブラジル、イランなど、世界各国で販売されました。アメリカではプリムス・クリケット、フランスではサンビーム・1250/1500、その他の国々ではサンビーム・アヴェンジャーとして販売された他、南アフリカやアルゼンチンなどでは現地生産も行われていました。

アヴェンジャーは、その時代の技術や市場状況を反映した、多様な展開を見せた小型車です。保守的な機構と革新的なデザイン、そして世界規模での販売戦略など、様々な側面から見て、自動車史における興味深い1台と言えるでしょう。1977年には、アヴェンジャーをベースにした3ドアハッチバックのサンビームも登場しています。

アヴェンジャーの登場は、クライスラーの欧州戦略における重要なステップでした。しかし、時代の変化や競争激化の中で、その歴史は比較的短いものでしたが、多くのバリエーションとグローバルな展開を通して、自動車史に名を残すモデルとなりました。日本市場には輸入されませんでしたが、世界中で愛されたモデルとして、その存在感は決して小さくありません。

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