ビア&カフェBERG

ビア&カフェ BERG

東京都新宿区のルミネエスト新宿地下1階に位置する「ビア&カフェ BERG（ビアあんどカフェ ベルク）」は、パブとカフェのスタイルを融合させた独特の店舗です。JR新宿駅東口からわずか15秒という非常に便利な立地を誇り、「新宿ベルク」という通称でも広く知られています。

現在のオーナー兼店長は、1960年生まれの井野朋也氏が務めており、この店を父から引き継いだ二代目となります。ベルクが店を構えるルミネエスト新宿は、かつて「新宿ステーションビル」と呼ばれ、後に「マイシティ」と改称された駅ビルが前身です。この新宿ステーションビルの運営会社、株式会社新宿ステーションビルディング（現在の株式会社ルミネ）の設立には、井野朋也氏の祖父である井野碩哉氏が深く関与していました。祖父の碩哉氏は、農林大臣や法務大臣などを歴任した政治家であり、同社の出資者・株主の一人でした。井野朋也氏は自身のブログで、新宿ステーションビルは祖父と幼なじみの浜野茂氏（「新宿将軍」と呼ばれた相場師）が創設した日本初のショッピングモール形式の駅ビルであり、祖父が初代社長に就任したと記しています。ベルクの開店のきっかけは、勤務先を解雇された自身の息子、すなわち井野朋也氏の父のために、創設者の一人であった碩哉氏が駅ビル内に場所を用意し、喫茶店を始めさせたことにあると伝えられています。井野氏の親族には、祖父の兄で満州国最高法院長を務めた井野英一氏や、農業経済学者でマルクス主義者、日本共産党員でもあった伯父の井野隆一氏などがいます。現在のベルクは、井野店長の他に、共同経営者も務める迫川尚子氏が副店長として店を支えています。

ベルクは1970年、当時新宿ステーションビルだった現在の場所で、純喫茶として営業を開始しました。開店当時の新宿は、米タン阻止闘争や新宿騒乱、新宿フォークゲリラなど、学生運動や左翼運動が活発だった時代でした。店舗は面積15坪、席数40席と決して広くはありませんが、店長・副店長以外にも複数の従業員が働いています。1990年、現オーナーである井野朋也氏によって、大きな業態転換が図られました。それまでのフルサービス形式の純喫茶から、低価格で客の回転率を高めるファストフード形式へと変わり、セルフサービス方式が導入されました。この転換は成功し、客数は約10倍に増加。2005年から2012年にかけての複数の調査時点では、一日あたり平均1,500人もの利用客があったことが記録されています。

提供されるメニューは、看板メニューであるホットドッグ「ベルク・ドック」をはじめ、200種類以上に及びます。食材の原価率が平均で5割弱と高水準であることも特筆されます。また、ベルクは日本国内のみならず国外からも、樽詰めビールを独自の仕入れルートで調達しており、希少な限定ビールを目当てに訪れる常連客も少なくありません。店内の壁面を利用したアート展を定期的に開催していることも、ベルクの個性の一つです。

ベルクの歴史において、特に注目すべき出来事として、「ルミネ立ち退き問題」と「都条例による禁煙問題」が挙げられます。

まず「ルミネ立ち退き問題」は、ベルクが入居するマイシティが、運営会社である株式会社新宿ステーションビルディングのJR東日本グループ傘下の株式会社ルミネへの吸収合併（2006年）と、それに続く「ルミネエスト新宿」への改称および大規模なリニューアルを背景に発生しました。2007年、ルミネはベルクに対し立ち退きを求めます。これに対し、ベルク側は要求を拒否しました。この立ち退きに反対する署名運動が始まり、半年足らずで約9,000人もの署名が集まりました。ルミネはさらに2007年2月、賃貸借契約を期間の定めのないものから定期借家契約へと変更するよう要望しましたが、ベルクはこれも拒否しました。井野氏によれば、この時、ベルクを含む4店舗を除く200を超えるテナントがルミネの要求に応じ、定期借家契約に切り替えたとのことです。その後もルミネはベルクに対し、繰り返し立ち退きを要求し、ベルクは2007年11月に立ち退き要求の事実を公式ウェブサイトやミニコミ誌「ベルク通信」で公表しました。これを知った常連客らは応援を目的としたウェブサイト「LOVE! BERG!」を立ち上げ、店内に設置された署名箱への署名数は、1か月半で5,000人、半年で1万人を突破しました（一部報道では9,000人）。これらの署名は2008年9月末までにルミネ側に提出されました。しかし、ルミネは2008年9月末付で、現在の契約が満了する2009年3月末までに退店するよう求める文書を送付。万が一退店しない場合は、賃料を大幅に引き上げるという一文も添えられていました。ベルク側は法的な訴訟ではなく、ルミネ側に事情を「理解してもらう努力をする」意向を示し、文書でのやり取りを望むとして当初は直接の話し合いを拒否していましたが、最終的には副店長らがルミネとの話し合いに出席しました。ルミネ側は、退店期日である3月末を「遺憾ながら」延長するとともに、当初の倍近い賃料値上げ要求についても、いくらか値下げする譲歩案を提示し、その理由として「お客様の声があったから」と強調したとされています。この問題は国会でも議論の対象となり、2010年10月の参議院法務委員会では、借地借家法上、借主に定期借家契約への変更に応じる法的な義務はないとの政府答弁がなされました。その後もルミネから2010年9月に契約解除と2011年3月末までの退店要求通知がなされましたが、2012年9月にはルミネ側からの通知は届きませんでした。賃貸借契約を終了させるためには、契約満了の半年前である2012年9月までにベルクへ通知を行う必要がありましたが、この通知がなかったため、契約はそこからさらに2年間、2015年3月末まで自動的に更新される結果となりました。このように度重なる困難を乗り越え、2022年6月時点においても、ベルクはルミネエスト新宿での営業を継続しています。

もう一つの問題は「都条例による禁煙問題」です。店舗が手狭なため分煙設備がないまま、長年店内喫煙可能として営業を続けてきましたが、2010年にルミネから、健康増進法および東京都の条例に基づき館内を全面禁煙とする検討が進んでいるとの通知がありました。これに対し、井野店長は「全面禁煙は営業に重大な支障をきたす」「ベルクの区画は、建物の構造上ルミネ館内とは異なる性質を持つ」として、要請を拒否。さらに、「コーヒー、酒、タバコは文化的なセットである」「受動喫煙対策を大麻規制と同様に考えるのは適切ではない」など、自身の考えに基づく反論文書を返送しました。しかし、2020年4月1日、東京都受動喫煙防止条例および、受動喫煙防止対策を強化した改正健康増進法が全面施行されたことにより状況は変化しました。これにより、複数の人が利用する場所では原則として屋内禁煙が義務付けられ、基準を満たす喫煙室（分煙設備）を設置していない飲食店での喫煙ができなくなったため、ベルクも同日から全席禁煙となりました。

新宿の駅ビル地下という立地で、独自のスタイルと哲学を貫き、多くのファンに支えられながら営業を続けるベルクは、単なるカフェやパブに留まらない、新宿の文化的な一角を担う存在と言えるでしょう。

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