ミニコミ

ミニコミ：社会運動と情報発信の変遷

1970年前後、活発な社会運動が展開される中で、既存のマスメディア（新聞、雑誌、テレビ、ラジオ）への不満が高まりました。マスメディアの報道は、特定の視点からの情報提供に偏っているとの批判があり、現場の当事者たちは、より多様な情報発信手段を求めるようになりました。

このニーズに応える形で生まれたのがミニコミです。ミニコミは、個人や団体が、特定のテーマに焦点を当てて作成する出版物で、ガリ版印刷などの簡素な方法を用いて制作されました。友人同士での手渡しや郵送を通じて配布され、マスコミが伝えきれない事実や主張、議論を発信する役割を果たしました。

ミニコミは、単なる内部通信的な同人誌とは異なり、明確な主張を持って不特定多数の読者へ訴えることを目的としていました。そのため、編集意図が明確に示され、複数ページからなるものも多く、号を重ねて発行されるものも見られました。目的や規模によっては、活版印刷やオフセット印刷を用いるなど、より高度な印刷技術が用いられた場合もあります。製本技術にも工夫が凝らされ、大切に保管できるものもありました。

ミニコミは、マス・コミュニケーションに対抗する「ミニ・コミュニケーション」として位置付けられ、その簡潔さを表す言葉として「ミニコミ」と略称されました。これは、個人が手軽に情報発信を行い、社会に働きかけることができる新たな手段として注目されました。

しかし、1970年代後半からは、小型の雑誌や深夜放送、地域メディアなどの多様な情報発信手段が登場し、ミニコミの存在感は徐々に薄れていきました。その後、パソコン通信やインターネットの発展により、個人の情報発信手段はますます多様化しました。ミニコミというジャンルは消滅したものの、その精神は、現代のデジタルメディア、特にSNSへと受け継がれていると言えるでしょう。

現代のSNSは、個人が自由に情報発信できるプラットフォームとして機能しており、ミニコミと同様に、マスメディアに頼らず独自の情報や考え方を発信する手段となっています。大勢のユーザーがそれぞれの主張を展開し、多様な意見が交わされるSNSのダイナミズムは、ミニコミが目指した情報流通のあり方と通じるものがあります。

ミニコミは、単なる過去の現象としてだけでなく、現代の情報社会を考える上でも重要な意味を持つと言えるでしょう。マスメディアに依存しない情報発信、個人の主体的な表現活動、多様な意見の流通というミニコミの精神は、現代社会においても依然として重要であり、その歴史的意義は高く評価されるべきです。

参考文献

「朝日ジャーナル」特集：ミニコミ'71---奔流する地下水 1971/03/26号 朝日新聞社
「ミニコミの論理」―「知らせる権利」の復権　田村紀雄編著 1976、学陽書房
「アメリカのタウン誌」田村紀雄著 1981 河出書房新社
「アメリカの日本語新聞」田村紀雄著 1985 新潮社
「ミニコミマニア」春日出版編集部／編集 春日出版 2008/12
「日本のZINEについて知ってることすべて」 同人誌,ミニコミ,リトルプレス-自主制作出版史1960〜2010年代　ばるぼら／編著 誠文堂新光社 2017/11

外部リンク

「朝日ジャーナル」特集：ミニコミ'71-奔流する地下水 1971/03/26号 朝日新聞社 http://terran108.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/-197103262-18.html
「ミニコミ図書館」https://wan.or.jp/dwan
* 「ミニコミ・コム」http://www.minicomi.orj.jp/

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