ビッグブラウン

ビッグブラウン：輝きと挫折、そして伝説へ

2007年、キーンランド2歳トレーニングセールで19万ドルという価格で落札された競走馬、ビッグブラウン。その名は、アメリカ競馬史に刻まれることになる、類まれな才能と数々のドラマを秘めた一頭でした。

デビュー戦は芝コース。11馬身差という圧勝劇で、関係者の度肝を抜きました。続くダート戦のアロウワンスでも12馬身差の圧勝。その圧倒的な強さで、ビッグブラウンは瞬く間に脚光を浴びることとなります。

2008年、ケンタッキーダービーの前哨戦であるフロリダダービー。ここでも5馬身差の圧勝劇を演じ、ケンタッキーダービーの大本命に躍り出ます。迎えたケンタッキーダービーでは、20頭立ての大外20番枠という不利な枠にも関わらず、直線で圧倒的な末脚を繰り出し、5馬身差をつけて見事勝利。4戦4勝、バーバロ以来となる無敗でのケンタッキーダービー制覇は、競馬史に新たな1ページを刻みました。

その勢いは留まるところを知らず、続くプリークネスステークスでも2着馬に5馬身1/4差をつける圧勝。スマーティージョーンズ以来4年ぶりとなる無敗での二冠達成を成し遂げました。しかし、この勝利の直後、左前脚の裂蹄が発覚します。

そして、アファームド以来30年ぶりとなる三冠への期待が高まる中、迎えたベルモントステークス。しかし、ここでビッグブラウンはまさかの最下位。競走中止という結果に終わりました。レース後の検査では異常は見つからず、調教、暑さ、騎乗、蹄鉄など様々な憶測が飛び交うものの、敗因は特定されませんでした。

この衝撃的な敗北後、約2か月の休養を経て復帰。ハスケルインビテーショナルステークスを制し、再び勝利の美酒を味わいます。その後、芝のモンマスステークスも制覇。ブリーダーズカップ・クラシックを目指し調整を進めていましたが、10月、追い切り中に右前脚を故障。惜しまれつつ、競走馬としての生涯を終えることとなりました。

種牡馬としては2009年からスリーチムニーズファームで供用が開始され、シャトル種牡馬としてオーストラリアでも種付けを行いました。初年度の種付料は6万5000ドルでしたが、産駒の活躍は期待ほどには伸びず、種付料は年々減少。2015年には1万ドルを下回るまで落ち込みました。2010年産駒の中には、日本ダービーで3着となったアポロソニックも含まれており、日本にもその血統は伝わっています。2024年には種牡馬を引退し、余生をオールドフレンズで送ることとなります。

ビッグブラウンの生涯は、華々しい勝利と突然の敗北、そして、種牡馬としての歩みと、数々のドラマに満ち溢れていました。その名は、アメリカ競馬史に燦然と輝く、伝説の競走馬として永遠に語り継がれることでしょう。

さらに、ビッグブラウンはドーピング問題にも深く関わっていました。ケンタッキーダービー前までアナボリックステロイドを投与していたことを調教師が認めたことで、アメリカ競馬界におけるドーピング問題の是非が大きく問われることとなり、カリフォルニア州では2008年からアナボリックステロイドの使用が規制されるなど、大きな影響を与えました。

ビッグブラウンという競走馬は、その圧倒的な強さだけでなく、数々の議論を巻き起こした存在でもあったのです。彼の生涯は、成功と挫折、そして、その後の競馬界に与えた影響を通して、長く人々の記憶に残るものとなりました。

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