ビッグ・ピクチャー顔のない逃亡者

2010年に製作されたフランス映画で、サスペンスとドラマを融合させた作品です。邦題は『ビッグ・ピクチャー顔のない逃亡者』とされ、英題は『The Big Picture』です。オリジナルのフランス語タイトル『L'homme qui voulait vivre sa vie』は、「自身の人生を歩みたかった男」という、物語の核心を示唆する意味を持っています。本作は、アメリカの作家ダグラス・ケネディが1997年に発表した同名小説を原作としており、舞台設定をフランスへと翻案しています。日本では劇場では公開されませんでしたが、2012年10月21日にWOWOWにて『ビッグ・ピクチャー』のタイトルで放送されました。

ストーリー

物語の主人公は、パリで成功を収めた有能なエリート弁護士、ポール・エグズベン。彼は郊外の邸宅で、妻サラと二人の子供と共に、傍目には何不自由ない恵まれた生活を送っています。ポールは子供たちを深く愛する子煩悩な父親ですが、一方で妻サラとの夫婦関係には冷たい溝が深く横たわっていました。表向きの幸せとは裏腹に、家庭内には緊張感が漂っています。

ある日、ポールは衝撃的な事実を知ります。妻サラが、隣に住む売れない写真家グレゴワール・クレメールと不倫関係にあるということでした。この発見は、ポールの平静を根底から揺るがします。サラがポールとの離婚を考え、家を出て行った後、ポールはグレゴワールのもとへ向かい、妻との関係について問い詰めます。グレゴワールがあっけらかんと不倫を認めたことで、激しい怒りに駆られたポールは、感情の抑えが効かなくなり、はずみでグレゴワールに致命的な傷を負わせてしまいます。そして、彼はその場で息絶えてしまいます。

突如として殺人犯となってしまったポールは、途方もない絶望に襲われます。しかし、彼はすぐに、愛する二人の子供たちの将来を守るため、恐るべき決断をします。「殺人犯の子供」という烙印を押される運命を避けるため、ポールは自身の存在を消し去ることを選びます。彼は、殺害したグレゴワールの身分を乗っ取り、ポール・エグズベンとしてはヨットの事故で死亡したと見せかける周到な偽装工作を行います。こうして、ポールは過去の自分と決別し、別人として生きるために東欧の某国へと逃亡を図ります。

新たな名前と身分で、ひっそりと暮らすことを選んだポールでしたが、運命は彼に別の道を提示します。逃亡先の地で、彼は偶然、現地の新聞社『ベオグラード新報』の主筆である初老の紳士バルトロメと出会います。飲んだくれではあるものの、人の才能を見抜く目を持ったバルトロメの口利きによって、ポールは写真家として新聞社と契約することになります。グレゴワールの名で発表されたポールの写真は、彼の内面に秘められた才能が解放されたかのように、瞬く間に多くの人々の注目を集め、高い評価を得ます。こうして、ポールは図らずも写真家として成功を収めていくのです。

しかし、その成功は、正体を隠して生きるポールにとって皮肉にも最大の脅威となります。有名になるにつれて、自身の顔や経歴が注目される機会が増え、いつか過去の秘密が露見するのではないかという強い不安に常に苛まれるようになります。このままでは危険だと判断したポールは、再び逃亡することを決意し、南米へと向かう貨物船に乗り込みます。

船上での過酷な旅の途中、ポールは船員たちの間で起こった激しい喧嘩を目撃します。その結果、何人かの船員が容赦なく海に投げ捨てられる凄惨な光景を目撃してしまったために、ポール自身も口封じとして海に突き落とされてしまいます。絶体絶命の状況でしたが、幸運にも密かに落とされていた救命ボートによって、ポールは九死に一生を得て南米大陸に漂着します。彼は、危険を冒して船から持ち出すことに成功していた、船上での事件を捉えた写真を、同じく救助された船員を通じてメディアに売り込むことを画策します。それは、再び自身の置かれた状況を打開し、生き延びるための、ポールにとって最後の手段でした。

キャスト

本作の主要な登場人物とキャストは以下の通りです。

- ポール・エグズベン: パリのエリート弁護士から、ある事件を機に人生を大きく変え、逃亡者となる主人公。複雑な内面を持つ役をロマン・デュリスが演じます。
- サラ・エグズベン: ポールの妻で、作家志望。マリナ・フォイスが演じます。
- バルトロメ: ポールが逃亡先で出会う新聞社の主筆。ポールに写真家としての道を開く人物。ニエル・アレストリュプが演じます。
- グレゴワール・クレメール: サラの不倫相手であり、ポールの人生を狂わせるきっかけとなる売れない写真家。エリック・リュフが演じます。
- イヴァナ: バルトロメの同僚で、ポールが逃亡先で惹かれ合う女性。ブランカ・カティッチが演じます。
- アンヌ・ダマゾ: ポールが以前所属していた弁護士事務所の所長。フランス映画界の大女優、カトリーヌ・ドヌーヴが特別出演しています。

本作は、ある男が犯した過ちから逃れるために、自分自身を偽り、全く異なる人生を歩もうとする過程を描きながら、アイデンティティ、罪悪感、そして予期せぬ才能の開花といったテーマを掘り下げていく重厚な人間ドラマとなっています。

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