ビトゥイーン・トゥー・ファイアーズ

『ビトゥイーン・トゥー・ファイアーズ』（Between Two Fires）は、1986年にイングランドのシンガーソングライター、ポール・ヤングによって発表された、ソロ名義としては3枚目のスタジオ・アルバムです。彼のキャリアにおいて、音楽的な方向性の変化が見られる作品となりました。

背景

本作の制作にあたり、ポール・ヤングは従来のスタイルから変化を試みました。過去のアルバム、特に初期の作品では、他のアーティストによる楽曲のカバーが大きな比重を占めていましたが、『ビトゥイーン・トゥー・ファイアーズ』では自身の創作意欲を反映させ、収録曲の大部分で彼自身が作詞・作曲に深く関わっています。これは、シンガーとしてだけでなく、ソングライターとしてのアイデンティティを確立しようとする彼の姿勢を示すものです。ただし、全ての楽曲を自身で手掛けたわけではなく、バックコーラスを務めたベッツィ・クックが「ワンダーランド」を提供したほか、前作『シークレット・オヴ・アソシエーション』にも楽曲提供を行ったアンドリュー・バーフィールドが「ウォー・ゲームス」を提供しています。

本人は後に、本作の方向性について振り返り、2022年のインタビューでアメリカのラジオ局でのオンエアを強く意識して制作したアルバムであったことを明かしています。しかし、結果として期待通りにはいかず、アメリカはおろかヨーロッパでも大きなヒットにはつながらなかったと率直に述べています。それでもなお、ヤング自身は「War Games」や「Wasting My Time」といった楽曲には自信があり、強力な曲が収録されていると考えているようです。

反響と評価

『ビトゥイーン・トゥー・ファイアーズ』は、商業的な面では前2作『何も言わないで』や『シークレット・オヴ・アソシエーション』ほどの成功を収めることはできませんでした。イギリスのアルバムチャートでは最高4位を記録し、前2作で達成した首位獲得には及ばず、トップ100圏内へのランクインも累計17週にとどまるなど、商業的な勢いは鈍化しました。

シングルに関しても、その傾向は顕著でした。イギリスのシングルチャートでは、「ワンダーランド」が最高24位、「サム・ピープル」が最高56位、「ホワイ・ダズ・ア・マン・ハヴ・トゥ・ビー・ストロング?」が最高63位に終わり、前作までに見られた全英トップ10シングルを輩出することはできませんでした。また、前2作がスウェーデンやオランダで首位を獲得していたのに対し、本作はスウェーデンで最高19位、オランダで最高23位にとどまり、ヨーロッパ本土での人気にも陰りが見えました。

アメリカにおいては、Billboard 200で最高77位に終わり、前作に続く全米トップ40入りは果たせませんでした。シングルとしては、「サム・ピープル」がBillboard Hot 100で最高65位に達し、本作からの唯一のアメリカにおけるシングル・ヒット曲となりました。

批評家の評価も分かれました。音楽評論家のステファン・トーマス・アーレワインは、オールミュージックのレビューで5点満点中2点という厳しい評価を下しており、収録曲自体の質の低さと、商業性を露骨に意識したプロダクションが本作の欠点であると指摘しました。一方、マシュー・ラッドは2018年の『クラシック・ポップ』誌の記事で、本作をより好意的に評価しています。彼は、本作が意図的にこれまでのブルー・アイド・ソウル路線から脱却しようとした試みであると捉え、燃えるようなギターが印象的な「In the Long Run」にロック的な側面を見出しています。また、メロディが美しい「Prisoner of Conscience」や、セクシーな雰囲気を持つ「A Certain Passion」なども、大胆さこそ控えめながらも「ご機嫌な曲」として評価しています。

収録曲

特記なき楽曲はポール・ヤングとイアン・キューリーの共作です。

1. サム・ピープル - "Some People" – 5:05
2. ワンダーランド - "Wonderland" (Betsy Cook) – 5:02
3. ウォー・ゲームス - "War Games" (Andrew Barfield) – 4:20
4. イン・ザ・ロング・ラン - "In the Long Run" (Paul Young, Ian Kewley, Pino Palladino) – 4:22
5. ウエスティング・タイム - "Wasting My Time" – 5:18
6. プリズナー・オヴ・コンシャンス - "Prisoner of Conscience" (P. Young, I. Kewley, P. Palladino) – 4:22
7. ホワイ・ダズ・ア・マン・ハヴ・トゥ・ビー・ストロング? - "Why Does a Man Have to Be Strong?" – 4:22
8. サートゥン・パッション - "A Certain Passion" – 4:15
9. ビトゥイーン・トゥー・ファイアーズ - "Between Two Fires" – 3:51
10. ウエディング・デイ - "Wedding Day" – 5:31

CDボーナス・トラック

11. ステップス・トゥ・ゴー - "Steps to Go" (P. Young, I. Kewley, P. Palladino) – 5:12

参加ミュージシャン

ポール・ヤング - ボーカル
イアン・キューリー - キーボード、ハモンドオルガン
マット・アーヴィング - キーボード
スティーヴ・ボルトン - ギター、シタール
ピノ・パラディーノ - ベース
デヴィッド・パーマー - ドラムス、プログラミング
ダニー・カミングス - パーカッション
トニー・ジャクソン、ヘイミッシュ・スチュアート、ベッツィ・クック - バッキング・ボーカル

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