ビブロス

ビブロス：古代フェニキアの繁栄と文化が息づく地

ビブロスは、レバノンの首都ベイルートから北へ約30kmに位置する地中海沿岸の都市です。古代にはフェニキア人の都市として栄え、その歴史は紀元前3千年紀にまで遡ります。ギリシャ語で「ビブロス」と呼ばれていますが、元々は「グブラ」、後に「ゲバル」と呼ばれていました。現在はジュベイル（Jbeil）という名で知られています。

フェニキア人の発祥の地

ビブロスは、フェニキア人の発祥の地として有名です。アルファベットの原型となったフェニキア文字もこの地で生まれました。紀元前3千年紀には、守護神であるバアラト・ゲバルを祀った神殿が建てられ、フェニキア人が居住し始めたとされています。フェニキア人は、ビブロスの東にそびえるレバノン山脈のレバノン杉を資源として活用しました。レバノン杉は、船や建築物の資材として優れており、樹脂も利用されました。フェニキア人は、ビブロスからレバノン杉をエジプトへ輸出し、地中海貿易の主役として活躍しました。

ローマ帝国とビザンティン文化の影響

紀元前1世紀中頃には、ビブロスはローマ帝国の支配下に入り、紀元395年以降は東ローマ帝国の一部となりました。東ローマ帝国はキリスト教を国教としていましたが、7〜8世紀にかけてイスラム帝国やスラヴ人の侵入を受け、ヘレニズム、ローマ法、正教会の影響を受けながらビザンティン文化圏へと変貌していきました。12世紀には、神聖ローマ帝国からの十字軍を迎撃するために要塞化されましたが、その後はベイルートなどに交易の中心地の地位を奪われ、衰退していきました。

「ビブロス」という名の由来

「ビブロス」という名前は、ギリシャ語でパピルスを意味する「βύβλος」に由来すると言われています。古代、ビブロスはエジプトの支配下にあり、レバノン杉がエジプトに輸出される代わりに、パピルスが輸入されていました。このパピルスがビブロスを経由してギリシャなどに運ばれていたため、ギリシャでは紙の原産地がエジプトではなく、積出港のビブロスとして認識されたのです。やがて、パピルスを意味するビブロスから「ビブリオン」（本）という言葉が生まれ、さらに「ビブル」（聖書）という言葉が派生しました。一方、都市の名前がパピルスの意味を持つようになったという説もあります。この説では、ビブロスが書物の意味に転じ、結果として「バイブル」（聖書）の語源になったとされています。

再発見と遺跡

ビブロスは、1860年にナポレオン3世がレバノンに出兵した際、同行した学者によって再発見されました。この地には、十字軍が12世紀頃に建てた城、フェニキア時代の集落遺跡、ローマ時代の街の遺跡などが残っています。発掘された出土品のほとんどは、ベイルートの国立博物館に移されています。

世界遺産としてのビブロス

ビブロスの遺跡群は、ユネスコの世界遺産（文化遺産）に登録されています。登録基準は以下の通りです。

(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
(6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの（この基準は他の基準と組み合わせて用いるのが望ましいと世界遺産委員会は考えている）。

主な史跡

オベリスク神殿

ビブロスは、その歴史的価値と文化的な重要性から、世界中から多くの観光客が訪れる場所となっています。古代フェニキア人の栄華を今に伝えるビブロスは、人類の遺産として大切に守られています。

参考文献

Byblos through the ages, Nina Jidéjian, Dar al-Machreq, Beyrouth, 1968
Je m'appelle Byblos, ジャン＝ピエール・ティオレ Jean-Pierre Thiollet, H & D, Paris, 2005 (ISBN 2 914 266 04 9)
堀口松城『レバノンの歴史　－フェニキア人の時代からハリーリ暗殺まで－』明石書店、2005年。ISBN 978-4-7503-2231-5。
栗田伸子、佐藤育子『通商国家カルタゴ』講談社〈講談社学術文庫〉、2016年。

関連項目

* ビブロス文字

もう一度検索