ビュート (モンタナ州)

モンテナ州ビュート：銅山王と鉱山町の興亡

モンタナ州シルバーボウ郡にあるビュートは、人口約3万4千人の町です。しかし、その歴史は、アメリカ西部を代表する銅山ブームと深く結びついており、かつては州内最大の都市として栄華を極めました。

銅山の町としての発展

19世紀後半、シルバー・ボウ・クリーク・バレーで銀と金の採掘が始まったのがビュートの始まりです。ロッキー山脈の分水嶺に位置するこの地は、やがて豊富な銅鉱脈の存在が明らかになり、世界的な銅需要の高まりとともに急激な発展を遂げます。特に第一次世界大戦期には空前の繁栄を迎え、「世界一豊かな丘」とも呼ばれたほどでした。

世界中から労働者が集まり、アイルランド、ウェールズ、イングランド、さらにはレバノン、カナダ、フィンランド、そしてアジア、ヨーロッパなど様々な国々からの移民が、この町の形成に大きく貢献しました。こうした多様な文化の融合は、地元の伝統料理である「パスティ（Cornish Pasty）」という挽肉パイにも表れています。鉱山労働者にとって手軽に食べられる食事として人気を博したパスティは、ビュートの多様な歴史を象徴する料理の一つと言えるでしょう。

ビュートの人口は1917年にピークの11万5千人に達し、当時シアトルからミネアポリスの間では最大の都市となりました。19世紀末には、海底ケーブル敷設などにおける銅の需要が急増し、ウィリアム・A・クラーク、マーカス・ダリー、フリッツ・アウグスタウ・ハインツといった「銅山王」と呼ばれる実業家たちが、ビュートの鉱山資源を巡って激しい競争を繰り広げました。その中で、マーカス・ダリーはロックフェラーらと共同で合同銅鉱山社（後にアナコンダ銅鉱山会社ACMに改称）を設立し、ビュートの鉱山を事実上独占するまでに成長しました。

鉱山事故と環境問題

ビュートの繁栄は、1917年のグラナイト・マウンテン／スペキュレイター鉱山災害によって大きな影を落とされました。地下610mで発生した火災により、168人が犠牲となるという、アメリカ鉱山史上最悪の事故の一つとなりました。この事故は、鉱山労働者の危険な労働環境を改めて浮き彫りにし、安全対策の重要性を訴える契機となりました。

また、1950年代以降は鉱脈の品質低下や他鉱山との競争激化により、アナコンダは危険な地下採掘から露天掘りに転換しました。この露天掘りの拡大によって、数千戸もの家屋が破壊されるなど、地域社会に大きな影響を与えました。さらに、1982年のバークレイピット閉山後、有害な重金属を含む酸性水が坑内に溜まり、スーパーファンド（地質環境汚染責任）用地として指定されるなど、深刻な環境問題を引き起こしました。その後、大規模な浄化事業が行われましたが、バークレイピットは現在も重金属で汚染された湖として残っており、アメリカの不気味なスポットの一つとして知られています。

現代のビュート

1960年代以降、ビュートの人口は約3万人を中心に推移しています。かつての繁栄の跡は、アップタウン地区に残る多くの歴史的建造物に見られます。これらの建物は、ゴーストタウンのような風情も残しつつ、現在も再利用され、ビュートの独特な景観を形成しています。

ビュートはまた、「労働組合活動の要塞」としても知られています。1885年以前から活動的な労働組合運動が存在し、アナコンダ社に対抗する力として大きな役割を果たしました。近年では、豊富な電力資源を生かした多結晶シリコン製造プラントの建設など、新たな産業も発展しています。

ビュートの歴史は、銅山ブームによる繁栄と、それに伴う鉱山事故や環境問題、そして労働運動といった様々な側面が複雑に絡み合ったものです。その歴史を理解することで、現代のビュートの姿をより深く理解することができるでしょう。 ビュートは、ダシール・ハメットのハードボイルド小説「血の収穫」や、サンドラ・ダラスの小説「わたしのいい男、バスター・ミッドナイト」の舞台としても知られ、文学作品にもその姿を残しています。また、ヴィム・ヴェンダース監督の映画「アメリカ、家族のいる風景」のロケ地にもなっています。

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