ビーケーワン怪談大賞

ビーケーワン怪談大賞：オンラインから生まれた怪談文学の新たな潮流

ビーケーワン怪談大賞は、オンライン書店ビーケーワンが主催し、2003年から2011年まで毎年夏に開催されていた公募文学賞です。この賞は、現代の怪談文学に新たな風を吹き込んだことで知られています。選考委員には、作家の加門七海、福澤徹三、評論家の東雅夫という、怪談文学界を代表する3名が名を連ねました。

特徴

ビーケーワン怪談大賞の最大の特徴は、その応募規定と選考方法にありました。まず、応募作品は400字詰め原稿用紙2枚、つまり800字以内という短い文字数に限定されていました。この制限は、現代の読者の読書スタイルに合わせ、短くても質の高い作品を求めるという意図がありました。また、応募された作品は、特設の専用ブログ上で投稿直後から公開されるというシステムも画期的でした。これにより、応募者同士が互いの作品を読み、コメントを交わすという交流が生まれ、一種のコミュニティが形成されました。さらに、選考委員は全ての応募作品に目を通し、選考作業を行うという、非常に手間のかかる方法を採用していました。これにより、応募作品の質が向上し、多くの才能が発掘されました。

傑作選「てのひら怪談」シリーズ

入選作と優秀作100編を収録した傑作選は、ポプラ社から「てのひら怪談」シリーズとして刊行されました。このシリーズは、ビーケーワン怪談大賞で選ばれた作品だけでなく、他の怪談作品も収録されており、現代怪談文学の入門書としても広く読まれています。

後継の賞

ビーケーワン怪談大賞の後継として、2012年には「てのひら怪談大賞」がスタートしました。選考委員や800字以内の怪談作品という規定はそのままに、新たな才能の発掘を目指しています。

歴史

この賞は、オンライン書店ビーケーワンと、東雅夫が運営するウェブサイト「幻妖ブックブログ」の夏期イベントとして企画されました。ビーケーワン社員で詩人の辻和人が発案し、ビーケーワン社外エディターのタカザワケンジが運営実務を担当しました。当初、応募数は少なかったものの、第3回から全応募作品をリアルタイムで掲載する方式を採用したことで、応募数が爆発的に増加し、作品の質も向上しました。第6回には、1人3作品までという制限があったにもかかわらず、725編もの作品が寄せられました。

終了

2012年5月17日、ビーケーワンが株式会社トゥ・ディファクトが運営するhontoに統合されたことに伴い、ビーケーワン怪談大賞は終了しました。しかし、その功績は大きく、現代怪談文学に大きな影響を与え続けています。

受賞作家・作品一覧

以下に、各回の受賞作家と作品を記載します。

第1回 (2003年)
大賞：朝宮運河『見上げる二人』
優秀賞：佐々木土下座衛門『傘を拾った話』、江崎来人『夜寒のあやかし』
佳作：カオパパ『お陀仏したらな』、アラキ『蟹』、SYU『（タイトルなし）』、松本楽志『蝉の祠』、ねと『（タイトルなし）』
第2回 (2004年)
大賞：佐々木隆『住んでいる家で昔起きたこと』
優秀賞：中尊寺『ちり、ちり』、朝宮運河『白昼』
佳作：秋芳雅人『観覧車の顔』、松本楽志『ゆびさした場所』、岑城聡美『見つけた』、甘南備あさ美『テディ』、イタ子28号『テルテル坊主』
第3回 (2005年)
大賞：我妻俊樹『歌舞伎』
優秀賞：秋芳雅人『乗り移るもの』、雨川アメ『連れて行くわ』
佳作：神森繁『カミサマのいた公園』、登木夏実『流れ』、ヒモロギヒロシ『デッドヒート』、彫川玄琢『カレンダー』、高山大豆『酒の味』、クジラマク『人を喰ったはなし』、ぬくてる『ねじれた人と折れた人』
第4回 (2006年)
大賞：勝山海百合『軍馬の帰還』
優秀賞：夢乃鳥子『矢』、江崎来人『ムグッチョの唄』
佳作：立花腑楽『吉田爺』、不狼児『猫である』、クジラマク『ガス室』、田辺青蛙『薫糖』、夜猿『光の穴』
愉しませてもらいました賞（加門七海選）：不狼児『マンゴープリン・オルタナティヴ』
愉しませてもらいました賞（福澤徹三選）：黒史郎『祖父のカセットテープ』
愉しませてもらいました賞（東雅夫選）：惰門出『カオリちゃん』
第5回 (2007年)
大賞：ヒモロギヒロシ『死霊の盆踊り』
優秀賞：クジラマク『赤き丸』、有井聡『磯牡蠣』
佳作：我妻俊樹『客』、勝山海百合『古井戸』、亀ヶ岡重明『アキバ』、狩野いくみ『赤地蔵』、君島慧是『デウス・エクス・リブリス』、飛雄『よそゆき』、松音戸子『アイス墓地』、松本楽志『厄』、幽星『影を求めて』、江崎来人『お花さん』
愉しませてもらいました賞（加門七海選）：武田若千『女』
愉しませてもらいました賞（福澤徹三選）：日野光里『角打ちでのこと』
愉しませてもらいました賞（東雅夫選）：うどうかおる『グラマンの怪』
第6回 (2008年)
大賞：飛雄『朝の予兆』
優秀賞：白縫いさや『傘の墓場』、仲町六絵『鳥の家』
佳作：我妻俊樹『百合』、ヒモロギヒロシ『トロイの人形』、金魚屋『八百年』、綾倉エリ『パッチン留め』、北詰渚『カチンコチン』
愉しませてもらいました賞（加門七海選）：蕗谷塔子『タマコ』
愉しませてもらいました賞（福澤徹三選）：太田工兵『告訴状』
愉しませてもらいました賞（東雅夫選）：皆川舞子『布団』
第7回 (2009年)
大賞：岩里藁人『美醜記』
優秀賞：沙木とも子『本家の欄間』、仲町六絵『水晶橋ビルヂング』
佳作：石居椎『でいだら』、影山影司『祟りちゃん』、烏本拓『波動』、君島慧是『球体関節リナちゃん』、国木映雪『ぼくと新しい神さま』、黒木あるじ『おまもり』、紺詠志『梨園のマネキン』、葉越晶『山羊の足』、ヒモロギヒロシ『さらばマトリョーシカ』、我妻俊樹『蛾』
愉しませてもらいました賞（加門七海選）：小瀬朧『冥福を祈る』
愉しませてもらいました賞（福澤徹三選）：小島モハ『柿をとる人』
愉しませてもらいました賞（東雅夫選）：白縫いさや『東の眠らない国』
第8回 (2010年)
大賞：該当作なし
優秀賞：葉原あきよ『警告』、芝うさぎ『あふひ』、猫吉『安全ポスター』、神沼三平太『手話』
佳作：有井聡『ボランティア』、古屋賢一『コラボ』、地獄熊マイケル『マリア様をみてる』、我妻俊樹『汐蜂』、屋敷あずさ『血天井』、君島慧是『いばらの孤島へ』、在神英資『ぶち切レ』、金魚屋『チヤの遺品』
愉しませてもらいました賞（加門七海選）：行一震『黒く塗ったら』
愉しませてもらいました賞（福澤徹三選）：緋衣『廃屋』
愉しませてもらいました賞（東雅夫選）：間遠南『ねばーらんど』
第9回 (2011年)
大賞：小瀬朧『窓辺』
優秀賞：貫井輝『子供靴』、告鳥友紀『過ぎゆくもの』
佳作：松本楽志『氷売り』、廻転寿司『タヌキ』、武田若千『隣家の風鈴』、水没『深さをはかる』、ルリコ『靴』
愉しませてもらいました賞（加門七海選）：尾神ユウア『黄泉の花嫁』
愉しませてもらいました賞（福澤徹三選）：よいこぐま『坊主の行列』
愉しませてもらいました賞（東雅夫選）：根多加良『おかえり』

まとめ

ビーケーワン怪談大賞は、オンライン書店という新しいプラットフォームを活用し、多くの才能を発掘した画期的な文学賞でした。その短編怪談という形式は、現代の読者にも受け入れやすく、多くの読者を魅了しました。この賞は、日本の怪談文学の新たな可能性を切り開いたと言えるでしょう。

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