ピアノソナタ第17番 (シューベルト)

フランツ・シューベルトによって1825年に書かれたピアノソナタ第17番 ニ長調 D 850は、翌年出版され、オーストリアの温泉地バート・ガスタインで作曲されたことにちなみ、『ガシュタイナー』という愛称で知られています。この作品はピアニストのカール・マリア・フォン・ボックレトに献呈されました。

概要

このソナタは、全体的に大きな規模を持つ作品であり、その後に続く第18番から第21番までの後期ピアノソナタ群と並ぶ、シューベルトの円熟期における重要な作品の一つに位置づけられます。

構成

全4つの楽章で構成され、演奏にはおよそ40分を要します。

第1楽章：アレグロ・ヴィヴァーチェ

ニ長調、4分の4拍子（自筆譜では2分の2拍子）、ソナタ形式。
冒頭で力強い主和音（D - Fis - A - D）が両手で鳴り響き、徐々に勢いを増していきます。第2主題はイ長調で現れ、3連符を主体とした楽想が特徴的です。両手によるオクターヴでのユニゾンが多く用いられています。

第2楽章：コン・モート

イ長調、4分の3拍子、ソナタ形式。
ベートーヴェンの交響曲第2番の緩徐楽章にも匹敵するほど長大な楽章です。微妙なシンコペーションがリズムに変化を与えています。しばしばその長さが指摘され、「天国的な長さ」と評されることもありますが、この表現は元々シューマンがシューベルトの交響曲第8番（旧第9番）を称賛した言葉に由来し、「すばらしい長さ」という意味合いも含まれ得るものです。

第3楽章：スケルツォ：アレグロ・ヴィヴァーチェ - トリオ：リステッソ・テンポ

ニ長調 - ト長調、4分の3拍子。
弱拍から始まる付点リズムが特徴的な、活気に満ちたスケルツォです。

第4楽章：ロンド：アレグロ・モデラート

ニ長調、4分の4拍子、ロンド形式。
大作の終結部としてはやや単純な印象を与えるという見解もあります。左手のD - Fis和音の上に、付点リズムを伴う特徴的な主題（A - H - A - Fis - D - D）が現れます。全体的に舞曲のような楽しげな雰囲気を持つ楽章で、簡単な変奏や転調を交えながら主題が繰り返されます。中間部はト長調で展開されます。第1楽章と同様にオクターヴによるユニゾンが多く使われています。最後はロンド主題が静かに消えゆくように閉じられます。

関連情報

このソナタは文学作品でも言及されています。村上春樹の小説『海辺のカフカ』では、ある登場人物がこの曲を車内で聴きながら、主人公に対し、フランツ・シューベルトのピアノソナタを完全に演奏することが極めて難しい作業であり、特にこのニ長調のソナタは「とびっきりの難物」であると語ります。また、シューベルトの音楽を「物事のあり方に挑んで敗れるための音楽」「ロマンティシズムの本質であり、精華」と評し、「退屈な音楽だろう？」と問いかけます。

また、村上は評論集『意味がなければスイングはない』の中でも、シューベルトの多くのピアノソナタの中で個人的に最も愛好しているのが本作であると述べています。その上で、このソナタが長く、やや退屈で、形式的なまとまりに欠け、技術的な聴かせどころも少ない点に触れつつ、そのような欠点を補って余りある「奥深い精神のほとばしりがある」とその魅力を語っています。

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